「飛び恥」も影響、世界で海外出張が半減 逆風続く航空・旅行業界
新型コロナウイルス禍がもたらした企業活動の変化に、出張の減少がある。とりわけ甚大な影響を受けたのが海外出張だ。ここ10年は右肩上がりで、一昨年には1・4兆ドル(約154兆円)に上っていた世界の出張旅行市場は昨年、一気に半減した。リモートワークの浸透で需要を完全に戻すのは困難との見方も強く、航空や旅行業界は急激な市場変化への対応を迫られている。
「オンラインで十分」
「出張の5割、オフィスへの出勤も3割が消滅する」
マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏が昨年11月に開かれた米紙主催の会議で、コロナ後の新たな働き方についてこんな大胆な予測をして話題を呼んだ。
これほど激減するかは議論が分かれるところだが、実際に「社内会議はオンラインで十分だし、コロナが収まっても海外出張の数は元に戻らない」(繊維大手)「駐在員を帰国させており、しばらく海外出張はない」(大手食品メーカー)といった声は多い。
米旅行団体「グローバル・ビジネス・トラベル・アソシエーション(GBTA)」の調査によると、世界における企業の出張支出総額は2020年が6940億ドルと、1・4兆ドルだった19年からほぼ半減した。今のところワクチンが世界に行き渡ることが出張再開への唯一の足がかりとされており、GBTAは「感染拡大前の水準に戻るのは25年」と、市場回復に相当の期間を要するとみている。
「飛び恥」新たな逆風
大きなあおりを受けているのは航空業界だ。ANAホールディングス(HD)の令和3年3月期連結決算は、最終損失が4046億円と過去最大の赤字を計上。日本航空も2866億円の赤字だ。コロナ禍でもレジャー需要で国内線が回復の兆しを見せる半面、国際線は海外出張が戻らず、観光客を見込める格安航空会社(LCC)事業に力を入れ始めている。
ANAHDは4年度後半から5年度前半をめどに新LCCの立ち上げを計画。従来の手厚い旅客サービスを行うフルサービスキャリア(FSC)並みの機材だが、機内サービスはLCC水準までそぎ落とし「出張から観光まで幅広いニーズに応えられるようにする」(広報担当者)。
日航も中国大手LCC傘下の春秋航空日本を今年6月に連結子会社化。中国で路線を開拓するなどLCC強化を図り、7年度のLCC事業の売上高で元年度比2倍を目指す。
また、二酸化炭素排出の多い航空機の利用を避ける「フライト・シェイム(飛び恥)」の概念も、出張旅行を阻む要因となりつつある。短距離の移動手段なら鉄道を選んだりする動きもあり、航空業界への新たな逆風となっている。
ANAHDは「航空機はよりエコであることが重要」とし、新LCCには炭素繊維複合材で機体を軽くして燃費を向上させた米ボーイングの中型機「787」を採用する計画だ。
ある航空業界関係者はフライト・シェイムについて「ある程度の出張の抑制につながるかもしれないが無論、出張自体はなくならない」としつつ、「コロナ禍を機に必要な出張と、オンラインで済ませられるものとの選別は厳しくなるだろう」と懸念する。
煩雑な手続きサポート
一方、企業の海外出張手配などを請け負う上で厳しい経営環境にあるのが旅行会社だ。感染拡大の中で積極的な需要喚起は難しく、まずは企業の出張や赴任に対するサポート態勢を強化している。
日本旅行は今年4月、ビジネス渡航に限り入国が緩和されたインドネシアへ赴任を予定する企業の駐在員ら向けに、入国時に隔離されたときのためのホテルやPCR検査の予約、住宅探しなどをワンストップで請け負うサービスを始めた。担当者は「コロナ禍で渡航手続きが煩雑化しており、代行で利用ニーズを増やせたら」と話す。