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「貨客混載」首都圏の私鉄も参入、地域活性など目的で輸送請負

 鉄道各社に旅客車両を使って生鮮品などの貨物輸送に取り組む動きが広がっている。新型コロナウイルス禍による旅客収入の減少を少しでも補いたい考えで、鉄道輸送の定時性や安定性を強みに収益化を狙う。新幹線のスピードを武器にJR各社が先行して実施していたが、首都圏の私鉄が在来線で参入するケースも出てきた。ただ、多くはニーズの把握もこれからで定着に向けたハードルは高い。

 2日夕、埼玉県内の東武東上線森林公園駅の上り線ホーム。到着した電車の先頭車両に野菜が入ったケースが次々と運び込まれる。運転室前のスペースに片側の扉が塞がるほど積み重ねられたが、注意喚起もあって気にする様子の乗客は見られない。野菜は近隣の直売所で売れ残ったもの。食品ロス削減に取り組むベンチャー企業のコークッキング(東京都港区)が買い取った。約50分で終点の池袋駅に到着すると、改札口付近に設けられた直売所で特別価格により販売された。

 同社は週3日で利用予定。実績によってはエリア拡大を検討する。担当者は「定時性や速達性が電車輸送のメリットで、環境負荷も少ない」と話す。

 この在来線による貨物輸送の利用は、社会貢献や地域活性化を目的する企業・団体などが対象。通常は持ち込めないサイズの大きな荷物も運べる。旅客車両のため混雑時間帯などは利用できないが、料金は荷物全体で乗車区間の小児1人分の運賃相当額と格安だ。

 東武鉄道の担当者は「まだ一歩を踏み出したばかり」とする一方、「公益事業の部分は柱として続ける」と強調。将来的に利用が見込まれる場合、新たな対象や運賃体系の追加設定も検討するという。

 収益化を目的に荷物と旅客を一緒に運ぶ「貨客混載」をめぐっては、速達性を最大限に生かせる新幹線の利用が主流だ。

 コロナ禍前の平成29年から導入しているJR東日本の傘下、ジェイアール東日本物流によると、鮮魚や花など輸送需要はさまざま。長距離でも安定的に荷物の当日配送が可能なことが評価されているという。

 導入検討中のJR西日本と連携し、同社管内の金沢から鮮魚を北陸新幹線で東京まで運ぶ実証実験も実施。会社をまたいだネットワーク化にも前向きだ。ジェイアール東日本物流の担当者は「コロナ禍で逆に需要が増えている。一つのビジネスとして確立している」と説明する。

 一方で、5月に貨客混載を導入したばかりのJR九州では「それほど収益は上がっていない」状況。物販用の食品輸送など自社利用が多く、「ニーズの種類を確認している段階」(担当者)という。また、荷物を車内販売用の準備室に保管する他社と異なり、座席上に乗せているJR北海道に至っては「座席を空で運行するよりはまし。収益を見込めるとは思っていない」(担当者)と話す。

 運行エリアで需要に濃淡がある中、速達性や環境負荷が小さいなど、鉄道輸送の利点の認知度を高めることが収益化のかぎとなりそうだ。(福田涼太郎)

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