SaaS~変革のプレイヤー群像

工場や店舗のノンデスクワーカー向けSaaS 「カミナシ」が“現場”を変える

SankeiBiz編集部
SankeiBiz編集部

実体験から実装した「多言語化機能」

――ワンタッチで多言語に自動翻訳される機能も付いているとのことですが、これは工場や飲食店などの現場で働く外国人労働者に対応したものなのでしょうか

諸岡CEO:

 私は大学卒業後、リクルートスタッフィングの営業職を経て、2012年から成田空港の旅客関連サービスを請け負うワールドエンタプライズ(千葉県成田市)に入社しました。父が経営する家業の会社です。私が働いていた現場はネパール人の留学生が多かったのですが、オペレーションのチェックや顧客からこういうクレームがあったと伝えようとしても、なかなか伝わらないことがあったのです。言語の壁でお互い不幸になっている。そう感じました。

 多言語化機能は、こうした自分の実体験から何としても実装したいと思っていた機能でした。英語をはじめ、中国語(簡体字・繁体字)、ベトナム語、ネパール語、ポルトガル語、タイ語、タガログ語、インドネシア語など9言語が翻訳できます。業界や業種によって特有の専門用語、表現を辞書登録することも可能です。自動的な機械翻訳と人の手による翻訳を組み合わせることで高い精度の翻訳を実現し、外国人労働者の方に確実に作業内容を伝達できるようにしています。

――「カミナシ」のきっかけは、家業であるワールドエンタプライズでの経験が大きかったのですね

諸岡CEO:

 はい。ワールドエンタプライズでの経験が99%といっても過言ではありません。機内食の業務で言えば、1食作ったらいくらという業務請負の作業だったのですが、現場責任者は納品のチェックなどで深夜の午後11時くらいまで残業することがありました。すべてチェックして、紙のレポートにまとめていくのですが、この作業に3時間くらい費やしていました。

 責任者の深夜割増手当、超過金手当もそれだけ多くかかります「こんなことをやっていたら儲からない」と思い、どうにかしなければと、業務を効率化できるサービスを探しました。しかし、ゼロからシステムを構築すると数千万円はかかると言われました。

 いっそのことすべて自分で作った方がいいのではないかと思い、プログラミングを学び始めたのがきっかけです。

 父は常々、「人がやりたがらないきつい仕事、外から見てよく分からない仕事ほどおいしいんだぞ」と言っていました。顧客ごとに現場を理解する難しい部分もありますが、ノンデスクワーカーに向けたサービスで勝負した方が、起業家として勝率が高いのかなと思いもありました。「すごい人間になってやる」という気概もありました。

 最初は食品製造業向けのバーティカルSaaSだったのですが、ピボット(方向転換)した経緯があります。ワールドエンタプライズでは、機内食の食品工場以外にもビルメンテナンスやホテルなどの業務も請け負っていましたから、そうした自分の経験もあり、食品製造業向けということではなく、腹を据えて長く事業をやっていこうと、広くノンデスクワーカー向けのホリゾンタルSaaSを提供しようと考えたのです。他のSaaS企業と差別化できるはずという確信もありました。そうして、2020年6月に今のカミナシのサービス提供に至っています。

――カミナシのサービスが世の中に受け入れられたと、PMF(プロダクトマーケットフィット)を実感したのはいつですか

諸岡CEO:

 まだプロダクト(製品)がない段階で、PowerPoint(パワーポイント)の資料だけで売れたということがありました。それが最初のPMFでした。プロダクトが完成し、月に100社以上から問い合わせが来た瞬間が2回目。そして、セールスが入社したその月に受注した瞬間が3回目のPMFです。「あ、これって私の経営者のビジョンとターゲットであるお客さんの層が一致したんだな」と、そう思いました。プロダクトも、セールスのやり方も間違っていなかったんだと感じました。

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