「砂丘行ったって言うたらアカン」 売上97%減、息絶えたドライブイン
新型コロナウイルスが猛威をふるう中、鳥取砂丘(鳥取市)の老舗ドライブインが5月末、ひっそりと閉店した。半世紀にわたって営業を続け、最近は新メニュー開発やイベントなど、意欲的なチャレンジを行っていたさなかだったが撤退を余儀なくされた。今年1月の売り上げが前年比97%減にまで落ち込み、「大型連休(GW)にかけた」が、期待したほどには売り上げが伸びなかった。前代未聞の対応を迫られた同店の1年を振り返る。
建物の契約更新迫り決断
「前経営者は、5月31日付で閉店されましたので、お知らせします」
国立公園鳥取砂丘の入り口近くにある建物に、家主名義でこんな張り紙が掲出された。
閉店したのは「砂丘フレンド」。1階が土産物販売と個人客向けレストラン、2階は団体客向けのレストラン。マイカーで訪れる個人客と、GW、梨狩り、松葉ガニシーズンに合わせた旅行社主催のバスツアーや企業の慰安旅行など団体客の2本立てで商売を続けてきた。
「前経営者」の砂丘フレンド運営会社・サンドヒルズ商事社長の山根弘司さん(61)は「突然だったが、建物の賃貸契約が2年間で、その更新時期が5月31日だった。もうもたなかった」と話した。
砂丘フレンドは鳥取砂丘に観光道路が整備された約50年前に営業を始め、経営者は山根さんで「5代目くらい」。経営者は代わっても途絶えることなく商売は続いており、閉店は今回が初めてという。
GW人出わずか776人
山根さんは平成29年に同店の経営者となり、昨年春までは順調に営業を続けていた。昨年1月には米子空港(同県境港市)と上海を結ぶ国際定期便が就航し、月に2回、この便で来日するインバウンド客を受け入れることが決まった。
「正直、うれしかった。中国人観光客は1人当たりの土産品購入額が大きい。3千円程度の日本人観光客に対して、中国人は5千円から1万円も購入する」
しかし、インバウンド客が実際に来店したのは2回だけ。同月末に中国の団体ツアーが禁止されたためで、以来定期便は欠航になったままだ。
昨年のGWは、書き入れ時にもかかわらず閉店せざるを得なかった。4月には全国に緊急事態宣言が発令され、観光地はおろか日本国内いたる場所で閑古鳥が鳴いた。県が砂丘入り口に設置しているカウンターでは、GW中に砂丘を訪れた観光客は5日間でわずか776人だった。
「例年のGWだと1日に観光バスが10台以上立ち寄り、ざっと400人にレストランで食事を提供する。個人客も500~600人訪れる。1日の売り上げは土産物で150万円、レストランで80万円など合計250万円近いが、昨年はずっとゼロ。国や県市からの補償はなかった」
梨狩りシーズンの9~11月も、観光バスの来訪はコロナ前と比べるとめっきり減った。コスト削減のため、順次レストランの営業日を減らし、アルバイトの数も減らした。
「辞めていく従業員の中には、感染リスクを理由に出勤を家族に反対されるケースもあった。正社員を含めて15人いた従業員は最終的には3人まで減った」
松葉ガニの買い物とセットのツアーはさんざんだった。1月の売り上げは前年のわずか2・8%。「さすがにがくぜんとした。でもこのころはまだ規模を縮小してでも営業は継続しようと思っていた。GWにかけていた」