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5G競争、新サービス必須「プラチナバンド」 楽天が再配分要望

 携帯電話会社に総務省が割り当てた周波数を再編する議論が活発化している。中でも注目されているのが、新規参入者の楽天モバイルが再配分を強く求める「プラチナバンド」と呼ばれる周波数帯だ。つながりやすい特長を持つこの周波数帯について楽天は、サービスの安定に欠かせないと主張する。だが、大手3社は、楽天という新興勢力が自分たちと同じ土俵に立つことへの警戒に加え、自社の通信品質低下や設備改修負担につながるとして難色を示している。

 残された1%争う

 プラチナバンドとは、周波数帯が700メガ~900メガヘルツの電波を指す。現行の第4世代(4G)移動通信システムは、主要周波数帯の1.5ギガ~3.5ギガ(1ギガは1000メガ)ヘルツとプラチナバンドの電波を利用している。

 電波は周波数によって特性が異なる。高い周波数は一度に送受信できるデータ量が多いが障害物に遮られやすい。低い周波数は速度は劣るが遠くまで届き、ビルの陰や屋内、地下でもつながりやすくなる。携帯電話は、2つの特性をうまく生かし、通信速度と安定性のバランスをとっている。

 プラチナバンドは2011年ごろ、割り当てを求めたソフトバンク(現ソフトバンクグループ)の孫正義氏がその希少性から「プラチナ電波」と呼び、知名度が一気に広がった。同社が12年3月に割り当てを受けた際には孫氏が「まさに念願がかなった。今夜は酒がうまい」と歓喜したほどだ。

 携帯電話の人口カバー率は、99%を超えた残りの1%をどう埋めるかが、各社の腕の見せどころとなる。その鍵となるのがプラチナバンドだ。プラチナバンドを割り当てられていなかった当時のソフトバンクは、数年間で兆円規模の設備投資を行い基地局数を約3倍に増やしたにもかかわらず、利用者から「つながりにくい」との不満を浴びていた。

 総務省は現在、携帯電話事業者各社の事業計画などを審査して周波数帯を割り当て、5~10年の使用期間を与えている。その後は5年ごとに再審査し免許を更新するが、実質的には割り当てが固定化する傾向にある。プラチナバンドを持たない楽天が競争上不利なのは確かだ。

 一方、大手3社は表向き再配分制度の創設には理解を示すが、本音では消極的だ。割り当てられた周波数帯に合わせ整備した基地局などの設備が、再編で無駄になってしまうからだ。ソフトバンクはプラチナバンドの割り当てに伴い、既存の周波数帯域利用者の移行費用として、約1000億円を負担した。

 楽天は、割り当て再編に伴う改修費用を3社合計で400億~1000億円と試算。山田善久・楽天モバイル社長は「費用を(楽天が全て)負担する覚悟はある」と述べるなど、3社の理解を得ようと必死だ。楽天は、利用者の拡大で22年ごろには割り当てられた周波数帯が大手3社と同程度にまで逼迫(ひっぱく)すると主張し、23年中にプラチナバンドを利用できるよう求めている。

 速度で対応できず

 ただ、消費者視点に立つと、限られた電波を有効に利用するという点で、再配分には課題が残る。再編されれば、電波がつながりにくくなるといった不利益を被るのは、割り当てを減らされた大手の既存利用者だ。楽天は今年5月時点で契約申し込みがようやく410万件を超えた程度。大手3社で計1億8000万回線の利用者の利益とてんびんにかけた冷静な議論が必要だ。

 また、現状の楽天利用者は、無料キャンペーンの影響で、1人当たりの月間データ使用量は大手の2倍程度に膨らんでいる。こうした前提で、将来の逼迫を訴える楽天の試算には甘さが残る。

 ソフトバンクは、プラチナバンドの割り当て前後で既に回線数は2500万超で市場シェアも2割を超えていた。08年に日本で初めて米アップルのiPhoneを発売し実質負担0円で普及させるなど、現在は禁止されている手法も駆使し、大手の牙城に切り込んできた。

 今後数年間で消費者が最も求めるのは、第5世代(5G)移動通信システムの普及だ。5G時代もプラチナバンドが今と変わらぬ輝きを保つとは限らない。総務省はプラチナバンドの5Gへの転用も認めているが、自動運転などを実現する5G技術に対応する通信速度はプラチナバンドでは出ず、名ばかりの「なんちゃって5G」となる。

 5Gでの競争は、楽天と大手3社で横一線。先頭に立つには、28ギガヘルツ帯などの高い周波数エリアを地道に増やすしかない。最新の機器を使って設備投資を割安にできる楽天にも十分勝機はある。楽天には、プラチナバンドにこだわった周波数再編よりも、5G時代を主導する新サービスを開拓していく役割を期待したい。(高木克聡)

 ■IoTで注目 有効活用を模索

 企業への周波数割り当てへの注目が高まっているのは、自動運転やあらゆるデジタル機器が通信でつながるIoT(インターネット・オブ・シングス)が今後の社会基盤を方向づけていくためだ。

 海外では、周波数帯の利用権を競争入札にかける「電波オークション」の導入が目立つ。

 一方、総務省の有識者会議が5月にまとめた報告書骨子では、基地局エリアの拡大など技術的な側面だけでなく、より多くの利用者が安価に多様なサービスを受けられるかが、企業の評価基準になると明記された。

 短期的な市場原理に偏らない電波の有効活用を模索する機運が高まっているともいえ、5Gの周波数割り当てはこうした考え方が先行して取り入れられる可能性がある。

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