高論卓説

日本の特許出願件数は? 自国産業の勢い示す重要な指標

 読者の皆さんは日本の特許出願件数を知っているだろうか。出願件数はその国の産業の勢いを示す重要な指標である、と筆者は考えている。日本の出願件数は、2000年頃に40万件を超えるピークを迎え、その後、しばらくその勢いを継続しリーマン・ショックのあった08年ごろから減少し続け、20年は30万件を下回った。(溝田宗司)

 他方で、中国の出願件数は、右肩上がりで急激に上がり続け、12年には日本を上回り、その後も増加中である。もちろん、産業自体が活気づいているからこそ出願件数も伸びるわけで、出願件数を伸ばしたからといって直ちに産業自体が活気づくという関係にあるわけではない。

 しかし、出願件数というのは株価のようなもので、出願件数が増加すること自体がその国の産業に勢いがあるという雰囲気を生み出すことにはつながると思う。その結果、産業が活性化するというのは十分あり得る話である。したがって、出願件数を増加させることは、日本にとって、重要な課題であるといえる。

 では、出願件数を増加させるにはどうしたらよいのだろうか。いろいろ考えられるところであるが、特許紛争を取り扱う弁護士の視点から考えてみると、その1つには、裁判制度の活用が考えられる。日本における特許権侵害訴訟の件数は、年間200件にも満たず、米国の年間約5000件、中国の年間約2万件などの諸外国に比べてかなり少ない。

 産業界からは、勝訴率が低い、コストの割に損害額が低いなどという指摘を受けることが多いが、近年、特許権者側が勝訴する確率はかなり高く(和解における実質的勝訴率を含めれば50~60%)、損害額も不当に低いということはない。今のところ、侵害訴訟というのは、特許権者にとって非常に魅力的な選択肢であることは確かなので、これを使わない手はない。紛争の件数が増え、権利者にとって有利だとなれば、出願件数も増えるであろう。

 確かに、企業からしてみれば、訴訟はコストなのかもしれないが、一部の大企業がかなりの件数の特許権を保有していることは事実であり、先述の通り、そうした権利をどんどん有効活用することがひいては産業の活性化につながるのである。ただ、気になるのは裁判のスピード感である。地裁の審理において、侵害・非侵害を判断するのに1年程度はかかる。これはビジネスのスピード感からすれば、改善の必要があろう。書面のやり取りの回数を制限するなど、ある程度裁判所の運用で変えられることだと思う。

 あり得ないかもしれないが、仮に提訴から3カ月で結論が出るともなれば、世界中で「まずは日本で裁判をやってみるか」となるかもしれない。日本の裁判というのは国際的に見ても相当程度品質が高く、どのみち世界のどこかで裁判になるのであれば、そうした日本の裁判を経るのは決して悪いことではない。そうした裁判が増えれば、裁判の種ともなる出願件数も増えるだろう。スピードが速くなれば処理できる件数も増える。いいことずくめである。

 特許制度は、単なる制度の一つに過ぎないが、運用次第で国の未来に大きく影響するのではないだろうか。

【プロフィル】溝田宗司 みぞた・そうじ 弁護士・弁理士。阪大法科大学院修了。2002年日立製作所入社。知的財産部で知財業務全般に従事。11年に内田・鮫島法律事務所に入所し、数多くの知財訴訟を担当した。19年にMASSパートナーズ法律事務所を設立。知財関係のコラム・論文を多数執筆している。大阪府出身。

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