動画投稿サイト「ユーチューブ」で授業動画を発信している「教育系ユーチューバー」が人気だ。英語や数学、古文、化学などあらゆる科目があり、対象学年も多種多様。新型コロナウイルス感染拡大で自宅で学習する機会も増え、子供たちの間でいつでも基本無料で視聴できる教育系動画が存在感を増している。塾の先生に求められるのは、授業で知識を伝える「ティーチング」ではなく、生徒の理解度や学習進度に応じた動画を紹介する「コーチング」の力。個々の生徒に即した授業動画をまとめた学習塾向けのアプリも開発された。
動画キュレーションアプリ
「高校生の9割以上がスマートフォンを所持し、ユーチューブの無料動画を学習の参考にしている。学習塾にとってこれから重要になるのがコーチングのスキル。塾の先生はジョブチェンジする感覚が必要だ」
学習塾向けの教育サービスを企画・開発するLacicu(ラシク、東京)の服部悠太社長は、こう指摘する。中学生の4人に3人がスマホを所持する時代。いつでもどこでも視聴できるユーチューブの授業動画を学習の参考にする子供は多い。動画に登場する“先生”も現役東大生や予備校講師など実力派揃い。教育系ユーチューバーとして有名なお笑いコンビ「オリエンタルラジオ」中田敦彦さんの「中田敦彦のYouTube大学」は登録者300万人を突破した。
ユーチューブはさまざまな授業動画であふれている。生徒一人一人に最適な動画を紹介するにはどうすればよいのか。そこでラシクが考えたのが、授業動画をまとめて紹介するキュレーションアプリだった。「Link」と「View」を組み合わせ「Liew」と名づけられたサービスで、今月2日にオンライン発表会が行われた。
服部社長は「操作性が緩いと、それだけでストレスになる。デザイン性や操作性の向上に注力して開発した」と胸を張る。独自に授業動画を作成し、ユーチューブに限定公開している大手や中堅の学習塾もあるが、パソコンでのログインが必要で、スマホですぐ再生できないなど使い勝手に難があったとされる。これに対しLiewでは、生徒がアプリを利用する際にIDやパスワードの入力は不要。QRコードを活用して簡単にアクセスできるという。
チャンネル登録者数17万人を誇る教育系ユーチューブチャンネル「超わかる!授業動画」で主に数学を担当している本田剛己氏も発表会に出席し、「生徒の成長のために動画を作っているが、そういうところにリーチしてもらえるアプリはうれしい」とLiewに期待を寄せる。
良質な授業動画だけが集められ、オススメとして提示されるLiew。3日間ログインしていない生徒に対し、チャットボットで自動的に通知する「コエカケ」機能などのほか、特定の中学校の生徒に対し、中間テストや期末テスト向けの指導、学習時間を管理する機能なども備わっている。「生徒だけでなく、学習塾の先生も使いやすい設計になっている。塾の先生の意識も、授業で知識を先生に伝えるティーチングから、生徒と並走してモチベーションを上げるきっかけなどを作るコーチングに代わってきている」(服部社長)。
ラシクによると、Liewは学習塾の生徒1人当たり300円の利用料を想定。将来的には、学習塾だけでなく、ヨガ教室や料理教室などのオンライン指導でアプリを活用することも検討しているという。服部社長は「指導者と教わる側というビジネスモデルならどの業界でも使えるようになる」との見方を示した。