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さすが“目”のつけどころが違う参天製薬 コロナ禍で生まれた「新様式」

 JR東日本が4180億円の赤字で、JR東海も1920億円の赤字を見込む。日本航空は2400億~2700億円程度の赤字を想定し、ANAホールディングスに至っては5100億円もの赤字を予測した。いずれも2021年3月期の連結最終損益見通しである。(尚美学園大学教授・佐野慎輔)

 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、運輸大手はいずれも厳しい数字を掲げた。日本経済、世界経済は依然、冷え込んだままだ。一体、誰がこれほどの落ち込みを予測し得ただろう。数字を突き付けられて「そこまでか」と改めて思う。

 コロナ騒動がなく、東京五輪・パラリンピックが予定通り開催されていたなら、海外から選手団のほか数多くの観戦客も見込まれた。国内でも活発な移動が予測され、まったく逆の数字となったに違いない。

 景気の冷え込みはわれわれの生活を圧迫するが、「所詮、遊び」と見なされがちなスポーツ界の不安は続いている。とりわけ障害者スポーツには暗い影を落とす。以前、小欄でもそう指摘した。「経営状況が好転しなければ、スポンサー契約は更新されない」との恐れである。

 そんな折、「目」を見張るニュースを見つけた。目薬で知られる参天製薬が、日本ブラインドサッカー協会(JBFA)および「インターナショナル・ブラインドフットボール・ファウンデーション」(IBFF)との間で、2030年まで10年間の長期にわたるパートナーシップ契約を結んだ話である。

 参天製薬は既に17年からJBFAとパートナーシップ契約を結び、東京パラリンピックに出場する日本代表チームを支援している。この9月10日にコロナ禍への対応として新たに特別協賛、追加支援を決めたばかり。1カ月半後、日本スポーツ界では異例となる10年契約締結。検討を重ねた末の長期契約に同社の覚悟をみる。

 視覚障害者を支援

 注目したいのはパートナーシップの内容。ご多分に漏れず、晴眼者と視覚障害者との間にはさまざまな課題が横たわる。それをいかに解決し、視覚障害者の社会参画を実現するのか、そのための長期契約であろう。

 同社のホームページには3つのゴールが示されている。(1)共体験でそれぞれの個性や強みを理解する(2)見えるに関するイノベーションを創出する(3)視覚障害者のQOL(生活の質)を向上する-である。理解、場の創出、社会参画という3段階と言い換えられるだろうか。

 (1)では、健常者がアイマスクを着けて視覚障害者とともにブラインドサッカーを体験することから始まる。身体のぶつけ合いから相互の理解を深める。こうした機会をユースキャンプや教育の場などを通して国内外に広めていくという。

 (2)では、企業やNPO、大学自治体なども参画したイノベーションハブの設立だ。視覚障害者の知見も生かし新たなサービスや職業を創出、視覚障害者の就業を推進していく。同時にスポーツ現場での目の検査、知識の普及、早期発見、治療を一貫して行う場の創出を目指す。

 (3)で視覚障害者に対するバイアスをなくし、“見える”と“見えない”の壁を溶かす。つまり共生社会の実現である。

 持ち味生かす協働

 ざっくり言えば、企業とスポーツの関係は、かつては部活動支援を通した社員への福祉の側面にほかならなかった。それが宣伝効果を求めたものと変わっていく。さらに近年ではCSR(企業の社会的責任)としての存在感が増している。五輪・パラのスポンサードではそうした側面が強い。

 参天製薬の取り組みは、自社の持ち味を最大限に生かす相手と「協働」した社会課題解決事業である。双方に大きなプラス効果をもたらすに違いない。さすが「目」のつけどころが違う、とうならされた。今後、こうした取り組みは増えていこう。コロナ禍から生まれた「新企業スポーツ様式」といってもいい。

【プロフィル】佐野慎輔(さの・しんすけ) 1954年富山県高岡市生まれ。早大卒。サンケイスポーツ代表、産経新聞編集局次長兼運動部長などを経て産経新聞客員論説委員。笹川スポーツ財団理事・上席特別研究員、日本オリンピックアカデミー理事、早大および立教大兼任講師などを務める。専門はスポーツメディア論、スポーツ政策とスポーツ史。著書に『嘉納治五郎』『中村裕』『スポーツと地方創生』(共著)など多数。

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