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としまえん「すべての乗り物に思い入れ」 運転のスペシャリスト、感慨深く

 31日に閉園し、94年の歴史に幕を閉じた遊園地「としまえん」(東京都練馬区)。首都圏の家族連れら多くの人たちが訪れ、別れを惜しむ中、事業運営部の渡辺孝一副部長(60)も最後の一日を感慨深く過ごした。不動の一番人気を誇るジェットコースター「サイクロン」や日本最古とされる回転木馬「カルーセルエルドラド」など数々の乗り物を動かしてきた運転のスペシャリスト。「としまえんは人生の一部ではなく、人生そのものだった」と振り返った。(石原颯)

 入社は昭和53年。「乗り物を運転したい」とこの世界に飛び込んだ。当時はマニュアルもなく、職人のような世界。まずは子供向けのエリアに配属され、一つ一つ動かしながら操作を学び、運転技術に磨きをかけた。

 「やっぱりジェットコースターを運転したい」。入社3年目のある日、「中央」と呼ばれていた大人向けのエリアへの異動を上司に願い出た。しかし、運転の技術・経験不足を理由に取り合ってもらえなかった。それ以来、中央で最も難しいとされる乗り物が2人掛けで急旋回するジェットコースター「マッドマウス」であることを聞き出し、昼休みを早めに切り上げ、練習を重ねた。

 マッドマウスは常時5台ほどがコース内を走行し、ブレーキ操作が最も難しいという。「ドラムをたたくような感覚で」ボタンを操作し、制御する技術を磨いていった。

 2カ月後、再びその上司に直談判。マッドマウスを実際に運転してみせ、上司を納得させた。確かな運転技術が認められ、4年目には一番人気のサイクロンを運転。新たな乗り物が来ると、「渡辺、運転しろ」と声がかかるようになった。

 入社して42年余り。「人に出会いと別れがあるように、乗り物にも出会いと別れがある。すべての乗り物に思い入れがある」

 渡辺さんには「一生の親友」と呼べる同期入社の男性がいた。3年前、職場で病に倒れ、数週間後に亡くなった。2人は偶然、同じ月に結婚した。当時の上司の呼びかけで園内のレストランでお祝い会を開いてもらい、妻と男性夫妻の4人でカルーセルエルドラドに乗った思い出がある。渡辺さんは最後にこう話した。

 「親友と一緒にとしまえんの『最期』を迎えられなかったのが心残り。閉園した後、親友の墓に『終わったよ』と報告したい」

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