高論卓説

コロナ禍でも能力開発継続を 限りある人材育成期間は取り戻せない

 企業のさまざまなメンバーに対して、経営実践スキルやリーダーシップ実践スキル、ビジネス実践スキルを向上させる演習プログラムを実施している。新型コロナウイルス感染拡大を受けて、2月以降、対面で実施していたプログラムを延期したり、リモートで実施したりしてきた。緊急事態宣言が解除された6月以降は、引き続きリモートで実施する企業もあれば、地域や企業によっては、密を避ける配慮をしながら対面実施を再開しているところもある。

 多くの企業が、能力開発プログラムをリモート実施するか、対面実施を再開するかの問題に直面している。リモートの場合は、私が実施している企業では、Zoom(ズーム)を使う場合が多い。20人なら20人の全体での演習に加えて、2人1組や5人1組などに分かれてロールプレイングや議論ができる、ブレイクアウトセッション機能を使えるからだ。

 Zoomに対するセキュリティー懸念から、自社内では別のツール使用を義務付けている企業もある。そのような企業でも、自社主催であればそのツールを使用する必要があるが、他社主催のプログラムに自社社員を送り込むという位置付けで実施する場合には、Zoom使用可としている企業もある。これはZoomに限ったことではないが、機密情報をみだりに話さない、そのプログラム固有のID、パスワードを設定、私から参加者へ直接これらを連絡するという対応をしている。

 リモート会議では、参加者はビデオやマイクをオフにして参加するというルールを設けている企業もあるが、私は、リモートでもトレーナーと参加者が問答をして、参加者同士で演習をしながらプログラムを進行していくので、常時、ビデオとマイクをオンにして参加いただく。このことは、いわゆる「なりすまし」参加の未然防止にも役立つ。

 一方、対面での実施を再開した企業は、従来の倍くらいの広い会場で、テーブルを組み合わせて6人1組で座っていたのを、同じ広さのテーブルに3人1組で座席配置、参加者はマスクをしたまま参加するという配慮をしている。私の場合は透明のシールド状のものを着用して進行、密を避ける時間帯や手段で移動する。緊急事態宣言以降、毎日測定している体温記録を共有する先もある。

 リモートの場合、チャットやスタンプやテキスト入力機能を使ってさまざまな演習を実施できる。Zoomの場合は、加えてブレイクアウトセッション機能を使えるので、双方向演習の効果は、対面での実施の場合と、あまり変わらない。Zoom以外の場合は、ブレイクアウトセッション機能がないので2人1組や6人1組などに分かれての演習回数は減るが、他の人の話法を参考にする機会を増やすことで、演習効果低下に歯止めをかけることができる。

 オフィスからの参加者はマスク着用の人もいるが、自宅から参加する人はマスク非着用だ。リモート実施か、対面実施かは、マスクを着用しないでリモート実施することと、マスク着用で対面実施することのどちらを選択するかという判断だ。

 顕在化していないかもしれないが、環境変化は個々のメンバーのモチベーションやパフォーマンスのレベルに影響を与えている。在宅勤務状況は、メンバー同士のエンゲージメントを低下させている。大事なことは、リモート実施する場合でも、対面で実施する場合でも、双方向演習による能力開発機会を損なわないことだ。最も重要な人的資源に対する「期限の利益」を損なってはならないからだ。

【用語解説】山口博

 やまぐち・ひろし モチベーションファクター代表取締役。慶大卒。サンパウロ大留学。第一生命保険、PwC、KPMGなどを経て、2017年モチベーションファクターを設立。横浜国大非常勤講師。著書に『チームを動かすファシリテーションのドリル』『ビジネススキル急上昇日めくりドリル』(扶桑社)、『99%の人が気づいていないビジネス力アップの基本100』(講談社)。長野県出身。

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