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産業医へ変わるニーズや役割 過労やメンタル、コロナ対策も急務に

 企業で働く人の健康管理を担う産業医の存在感が高まっている。これまでは健康診断のデータチェックなどが中心だったが、相次ぐ労働法制の改正は過労防止やメンタルヘルス対策を重視。企業はより専門的な助言を求めるようになった。新型コロナウイルスの感染拡大では対策が迫られる場面もあり、肩書だけではニーズに合わず交代するケースも増えている。

 「僕は呼吸器が専門でメンタルヘルスはよく分からない。主治医に従って」。東京都内のIT企業の人事担当者は1月、当時の産業医の発言に耳を疑った。若手社員が2カ月以上の不眠や食欲不振を訴えて休職を申し出た。対応策へのアドバイスを求めたときの出来事だった。担当者は「長くお世話になった医師だが、精神疾患が増えており、限界を感じた」。別の医師を探し始めたという。

 「『名ばかり』の産業医では対応できない場面が増えた」と指摘するのは、ベーシカル・ヘルス産業医事務所の佐藤文彦代表。これまでは臨床医が務めるケースが多かったが「企業が社員の流出を防ぐために働きやすい環境を整える必要を感じ、産業医の積極的な助言を求めるようになった」と変化を語る。

 産業医は労働者50人以上の事業所で選任する必要がある。専門の養成課程がある大学を卒業したり、日本医師会(日医)の研修を受けたりした医師が担う。厚生労働省によると、日医の研修を受けたのは2019年時点で約10万人。

 かつては工場勤務者の安全管理や労災防止などが役割だったが、働く人の課題が長時間残業や心の健康に移行。政府は産業医の役割を強化する法改正を重ねた。05年に長時間残業者への面接指導、15年には産業医の監督で労働者の心理的負荷を調べるストレスチェックを実施するよう企業に義務付け。19年施行の働き方改革関連法でも役割を拡充した。

 産業医派遣大手のメディカルトラスト(東京)によると、産業医の派遣や面談サービスの提供依頼は18年を境に2割程度増加。特に「メンタルヘルスの実務が分かる医師を」とのニーズが多い。

 不動産コンサルティングのボルテックス(東京)は3年前、社員増と社屋移転を契機に産業医の交代に着手し、1年前に選任した。残業抑制などの呼び掛けも「産業医から医学的なリスクと合わせて話してもらうと、社員が納得して取り組める」と効果を実感。新型コロナでは、生活する上での感染症対策や在宅勤務が長引くと運動不足になりやすいといった注意点も産業医から提供され、質の向上も感じたという。

 頼りになる産業医について、佐藤代表は「労働法制の変更やコロナ対応など、働く環境は今後もどんどん変わる。情報収集や相手企業とのコミュニケーションに力を入れていることがポイントだ」と話した。

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