大手商社が新型コロナで食料安定に注力 各事業見通し不透明
大手商社が相次いで食料関連事業の強化に乗り出している。伊藤忠商事が事業買収などで、北米地域での豚肉事業の加工能力を6割増とするほか、丸紅はサーモンの陸上養殖事業に参画した。新型コロナウイルス感染拡大の影響で落ち込んだ自動車や金属、鉄鋼、化学品などの事業の回復が不透明な一方、食品事業は安定的な収益が見込めるとの判断が背景にある。
伊藤忠の北米豚肉事業は、タイの財閥グループであるチャロン・ポカパン(CP)の子会社と共同出資するカナダのハイライフ・グループ・ホールディングスを通じて展開しており、拠点はカナダのみだったが、新たに米国ミネソタ州を拠点とする豚肉加工会社のプライムポークに75%出資しグループ化した。また、ハイライフはカナダの同業から養豚事業を買収。一連の投資により、北米地域での養豚能力は3割増加し、豚肉加工能力は6割増に高まる。米国、カナダの両国に拠点を持つことでカントリーリスクの低減にもつなげる狙いだ。
丸紅は、デンマークでサーモンの陸上養殖を手掛けるダニッシュ・サーモン(DS)を買収し子会社化した。サーモンは海では養殖に適した沿岸海域が限定されるため、陸上養殖への期待が高まっており、急成長が見込まれるという。今後、欧州に加え、世界各国で事業を展開する計画だ。
一方、豊田通商はクロマグロ養殖事業で、人工知能(AI)を活用したサイズ測定自動化システムを導入した。クロマグロやその幼魚のヨコワの大きさを正確に効率的に測定できるため、無駄な餌が不要になるほか、出荷前の測定で均一なサイズにそろえやすくなるなど事業競争力の底上げが期待できる。
新型コロナの影響で、大手商社はこれまで業績を牽引してきた石油や鉄鋼など資源分野の需要減少を見込んでおり、食品など生活消費関連事業の育成を加速するなど、各社とも投資方針の見直しで経営基盤を安定させたい考えだ。(平尾孝)
大手商社の主な食料事業強化の取り組み
・三菱商事
出資先のOlam社が米大手のナッツ製造会社を買収。日本向け製品を拡充
・伊藤忠商事
北米豚肉事業強化。事業買収、出資で加工能力を6割増。米国に新拠点
・三井物産
シンガポール砂糖製販子会社のSISで、飲料用ブレンド粉末事業を拡大
・住友商事
米国の培養魚肉製造技術のスタートアップ企業、ブルーナル社に出資
・丸紅
デンマークのサーモン地上養殖事業会社を子会社化し、同事業に参入
・豊田通商
クロマグロ養殖事業で、人工知能を活用したサイズ測定で効率を向上