新型コロナ対応で消毒代用酒を製造 地元を生かし「次の100年」を見る
【酒の蔵探訪】笹一酒造(山梨)
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、山梨県大月市の笹一酒造が、消毒用として代用できる蒸留酒「笹一アルコール77」(500ミリリットル、1320円)の製造を始めた。酒蔵として100周年を昨年迎え、「最高の日本酒を造る」と再確認した同社としてはイレギュラーな対応だったが、「酒造会社として、できることをしたい」と意気込む。
消毒用アルコールの不足を受け、厚生労働省は3月、消毒用でなくてもアルコール濃度が70~83%の製品を手指消毒に使えると都道府県などに連絡し、4月には改めて酒が使用可能と確認する見解を出した。
天野怜(れい)社長(41)が関係者を通じて厚労省に働きかけた結果の“解禁”だった。天野社長は「医療機関や老人ホームから、アルコール消毒液が足りないという声を聞き、役に立とうと思いました」と製造に踏み切った理由を語る。
昭和48年にスピリッツの製造免許を取得していたため、すぐにフル生産に着手し、県や市などにも寄贈した。追随して、仮免許を取得して製造を始める酒造会社も全国で相次いでいる。
笹一酒造のルーツは江戸初期にさかのぼり、日本酒造りを本格的に始めたのは大正8(1919)年。今年で101周年と、酒蔵としては比較的新しい。
戦後は機械化された工程で普通酒を大量生産していたが、天野社長の父の行典(ゆきのり)会長(79)が社長時代の平成25酒造年度を最後に、こうじ作りと酒母工程を手作業に戻し、純米酒や吟醸酒に転換した。
原点回帰の象徴として高級ブランド「旦(だん)」を発売。「富士山からの日の出」と「物事の始まり」の意味を込めたネーミングで、どんな食事にも合う「究極の食中酒」を目指している。
主力ブランドの「笹一」シリーズは、今年販売分から酒米を全て県産米に切り替えた。仕込み水は富士山に由来する天然水で「100%地元山梨の土地に根ざすブランド」とアピール。輸出にも力を入れている。
笹一アルコール77が好評な一方、飲食店の休業や不振で酒の業界は厳しい状況が続く。
「新たな100年」について、天野社長は「新型コロナ対応という波乱のスタートとなりましたが、当社はあくまで日本酒。真摯(しんし)に日本酒に向き合って、地元の素材を生かし切りたい」と話している。(渡辺浩)
【笹一酒造】 山梨県大月市笹子町吉久保26。寛文元(1661)年、みそやしょうゆを醸造する花田屋として創業。大正8年、後に衆院議員や知事を務める天野久氏が初代蔵元となり、今の社名になった。日本酒を主軸に、ワインや焼酎なども造っている。本社敷地内にショップ「酒遊館」がある。