在宅勤務で広がる成果主義 従来基準での人事評価難しく
新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに在宅勤務が広がり、一部の企業が成果主義を徹底するなど人事評価システムの変革を進めている。「集団の中での協調性」「勤務時間の長さ」など働きぶりが周囲から見えにくく、従来の評価基準が実態と合わなくなっているためだ。年功序列を基本とする日本企業で浸透しきれなかった成果主義だが、拡大の転換点となる可能性がある。
「通勤時間を省くことができた分、じっくりと資料作成に時間をかけられるようになった」。東京都内で法人営業を担当するパナソニックの男性社員は、勤務時間の大半を自宅で過ごすようになり、仕事の質の向上に手応えを感じる。
パナソニックはコロナを機に、オフィス勤務者に原則として在宅勤務を指示。他の企業でも同様の取り組みが相次いだ。東京商工リサーチが16日に発表したアンケートによると「在宅勤務・リモートワーク」を実施した大企業は83.0%に上った。
戸惑う管理職
社員から肯定的な意見が聞かれる一方、管理職からは戸惑いの声も上がる。人事評価サービスを手掛けるあしたのチーム(東京都)の調査では、管理職の7割以上がテレワーク時の部下の人事評価を「出社時と比べて難しい」と回答。「勤務態度が見えない」「成果につながる行動を細かく把握しづらい」といった理由が目立った。大手電機メーカーの管理職は「部内の人間には、以前よりも目標を明確に伝えている」と打ち明ける。
「日本人は部長の指示を待ち、遅くまで会社にいることが評価されてきた。システムをがらっと変えていかないといけない」。日本電産は4月、成果重視の人事評価に切り替えた。永守重信会長は、在宅勤務を広げる中で業績拡大を目指すには従来の手法では不十分だと訴える。
人事管理に詳しいパーソル総合研究所の小林祐児上席主任研究員は「現状の評価基準が対面を前提にしていて、やる気や積極性など主観的な要素が組み込まれている会社もある」と指摘する。
個人の成果を待遇に反映させやすい欧米型の雇用形態は大企業を中心に広がりつつある。日立製作所はIT部門や研究開発部門などで、社員がそれぞれ取り組む業務内容を詳細に規定し、達成度合いで評価する試みを6月に開始。来年3月には全職種に広げる考えで、広報担当者は「在宅勤務を中長期的に継続できる制度に変える」と話す。
資生堂は1月、管理職を対象に勤務時間ではなく規定した業務に対する成果で評価する報酬体系に変更。来年1月からは一部の一般社員でも取り入れる。
公正な仕組み重要
政府が緊急事態宣言を解除した後に出社する人が再び増えたが、在宅勤務を継続する人もいる。小林氏は「従来の手法に引っ張られていては出社した従業員に評価の比重が偏る」と述べ、成果に応じて公正に評価する仕組みづくりが重要だと主張する。
同志社大の太田肇教授(組織論)は「社員一人一人の担務が明確になれば分担も公平になる。社員のやる気が高まり、作業の無駄を省くことにもつながるだろう」と強調し、企業に対して中長期的な視点に立った制度改革を求めた。