新型コロナで需要減の国産食材「不漁より深刻」 給食や食育に活路
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で需要が減少している国産食材を買い取り、学校給食で提供する取り組みが全国の自治体で広がっている。大阪府は独自ブランド「大阪産(おおさかもん)」として国内外にPRしているシラスを、府内の小中学校に提供することを検討。生産者を支援し、子供たちに地元食材の良さを知ってもらう狙いがある。(小川原咲)
宮崎牛やマンゴー
取り組みは、農林水産省の事業の一環。新型コロナ禍で輸出や飲食店での消費が落ち込んでいる国産食材を、自治体が同省の補助金で買い取り、学校給食として提供する。
食材は和牛や地鶏、水産物、果物が対象。和牛は1人100グラム千円まで、水産物は同250~500円までと単価の上限があり、同省が全額補助する。
学校で配る食育用教材の作成費なども補助対象で、同省は関連事業費約1400億円を今年度補正予算に計上した。担当者は「普段の給食であまり食べられない高級な食材も含め、国産品のおいしさを味わってもらいたい。自治体は食育のいい機会にしてほしい」と話す。
同省によると、事業には大阪府のほか、京都府や兵庫県など約20道府県が参加予定。今月中旬には全国に先駆けて宮崎県が同県高原(たかはる)町内の小中学校で、宮崎牛を使ったロシア料理「ビーフストロガノフ」をふるまった。県担当者は「おかわりした子供もいて、おいしいと好評だった」と手応えを感じ、今後は県産の地鶏やマンゴーも提供する。
大阪はシラス、学習にも
大阪府では、私立を含む府内の全小中学校や特別支援学校に通う約65万人を対象に2、3学期に1度ずつ実施する予定。食材は新型コロナの影響で消費が減っている府内産のシラスを検討している。
府では平成21年から府内で収穫、生産された農林水産物や加工品を「大阪産」と名付けてブランド力を強化してきた。
主に大阪湾に面した泉州地域などで水揚げされる府内産のシラスもその一つで、釜揚げやシラス干しで親しまれてきたが、新型コロナの感染拡大に伴う外出自粛や飲食店の休業によって需要は減り、漁協などの事業者は苦境に陥っている。売り上げが見込めないため出漁回数も減り、30年に9千トンを超えたシラスを含む府内の漁獲量は減少する見通しだ。
府は給食での提供とともに、授業でシラスの船びき網漁法の様子を伝える動画などの教材を作ることも検討。担当者は「以前は公害や赤潮被害があった大阪湾の水質はかなり改善され、たくさん魚が取れている。子供たちには、シラスの味の良さだけでなく、府内の漁業の現状や歴史も知ってもらいたい」としている。
漁業打撃「不漁より深刻」
一方、シラスを取り扱っているという、漁師歴35年になる大阪府岸和田市の中(なか)武司さん(53)は「これまでも不漁はあったが、こんなことは初めてだ」と話す。
プランクトンの多い大阪湾で取れるシラスは「脂がのっている」「味が濃い」と評価が高く、岸和田港には例年、和歌山県や兵庫県など府外からも仲買人が買い付けに来ていた。
しかし今年は政府の緊急事態宣言で府県をまたぐ往来の自粛が要請され、仲買人は減り、飲食店も軒並み休業。高いときは25キロあたり3万~4万円で取引されるシラスが、その半値以下に急落する恐れもある。
中さん自身、4月の漁解禁直後に緊急事態宣言が出たこともあり、漁の回数は減少した。「取れても安いので、漁をしても生活が苦しくなる」
府が学校給食用にシラスの買い取りを検討していることについて、中さんは「府内でもたくさんの魚を水揚げしていると子供たちに知ってもらえる絶好のチャンスになる」と期待を寄せている。