銭湯に「オンライン番台」 感染防止策で画面から「いらっしゃい」
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、大阪市の銭湯が、モニター画面越しに接客を行う「オンライン番台」を導入した。住民の生活を支える施設として、銭湯は休業要請の対象外となっているが、クラスター(感染者集団)を発生させないなどの感染防止策は至上命題。知恵を絞った取り組みは、入浴客の評判も上々だ。(木下未希)
「いらっしゃいませ。券売機で券をご購入ください」。大阪市平野区の銭湯「入船温泉」では、番台に設置されたモニター画面に映る男性従業員が威勢のいい声で客を出迎えた。
客は入浴券を購入し、モニター画面の前にある小型カメラに券を見せる。「確認できました。ごゆっくりどうぞ」。客は券を番台にある箱に入れ、浴場へと進んでいった。
週2回、入浴に訪れる同区在住の女性(75)は「導入当初は戸惑ったが、慣れればいつもと変わらない。直接顔を見て雑談できないのは少し寂しいけれど、感染防止策としてはいい方法だと思う」と話した。
入船温泉は、緊急事態宣言の発令前から浴室などの換気や消毒を徹底するほか、全従業員はマスクを着用し、番台に消毒液を設置するなどの対策も講じてきた。それでも、店長の大坪学さん(36)は「地域のコミュニティーの一つとして客との会話を大切にしてきたが、番台での雑談や、直接金品を受け渡す従来の方法は感染リスクが高いと感じた」と語る。
そのため、より感染リスクを軽減して営業を続けようと、店にあったモニターやマイク、小型カメラの機材を活用。ビデオ会議サービス「Zoom(ズーム)」の機能を利用し、宣言が出された4月7日から「オンライン番台」を導入した。
別室にいる従業員1人がモニター越しに接客し、トラブルがあったときには素早く対応できるように別の1人が番台近くの部屋で待機している。
さらにタオルの貸し出しや、シャンプー、せっけん、牛乳などの購入も券売機でできるように変更し、客との接触を大幅に減らすことを可能にした。
大坪さんは「クラスターが発生してしまったら休業せざるを得なくなり、家に風呂がないお客さんには痛手となってしまう。感染リスクを最大限減らすように対策を徹底しているので、お客さんもうがい手洗いを徹底し、健康状態をチェックした上で利用してもらえれば」と呼びかけている。
「長時間利用は控えて」
大阪府公衆浴場組合によると、加盟する348事業者(4月1日時点)で休業しているのは2店舗のみ。ただ、加盟事業者からは「銭湯がクラスターにならないか不安」といった問い合わせが寄せられているという。
そこで、同組合は4月10日に加盟事業者に対して感染防止対策の指針を通知。サウナの利用禁止や休憩室での飲食禁止の徹底のほか、ロッカーを1列ずつあけて使用することなどを呼びかけた。また利用する際の注意点を記したポスターと、従業員用のマスクを全加盟者に配布した。
山谷昌義事務局長は「ジムやデイサービスが休業したことで、地域によっては混雑している銭湯もある。利用者には、浴室でのおしゃべりを控え、長時間の滞在や混雑時間を避けるなどしてほしい」と話している。