日本経済を揺るがしかねない「アマゾン・エフェクト」 その脅威
物価押し下げも
「ネット上で一国全体あるいは全世界の価格を見て購入できることになり、モノやサービスの価格が上がりにくくなっている」
日本銀行の黒田東彦総裁は平成30年6月の記者会見で、物価が伸び悩む理由についてこんな見解を示した。その数日後、日銀は、ネット通販の拡大が生鮮食品とエネルギーを除く消費者物価指数を0.1~0.2ポイント程度押し下げる要因となっているとの推計を公表。特に、競合の激しい日用品や衣料品の分野では、0.3ポイント程度下押しする圧力になっていると試算した。ネット通販の価格は、消費者物価の対象には入っていないが、既存の小売業が割安なネット通販に対抗して値下げするため、物価を押し下げると分析した。
同研究所の斎藤太郎経済調査部長は「消費者物価指数にネット通販価格が含まれていない分、実態の物価押し下げ効果はもっと大きい」と分析する。
日本だけでなく、他の先進国でも好景気なのに物価は伸び悩び、米連邦準備制度理事会(FRB)のイエレン前議長は「ミステリー(謎)」と評したほどだ。
生産性の向上や原油価格の下落など複合的要因とみられるが、アマゾン・エフェクトも物価伸び悩みの要因と考えられている。日本総合研究所の試算では米国では物価上昇率を0.1ポイント程度下押ししているという。アマゾン・エフェクトはさまざまな分野に影響を及ぼしつつある。
プラス効果も
アマゾン・エフェクトには悪影響だけでなく、プラスの効果もある。
まず、消費者はネットで簡単に割安な商品を手に入れやすくなった。さらに、店舗に出向くことなく24時間いつでも買い物でき、早ければ注文当日に商品が届く。
ネット通販の急成長を背景に、宅配需要の増加に伴って物流センターの新・増設は盛んだ。製紙大手4社の令和元年9月中間連結決算は、通販向け段ボール需要の増加などで4社全てが増益となった。
アマゾン・エフェクトは日本や世界の産業構造を大きく転換させつつある。日本総研の安井洋輔主任研究員は「政府が主導し、小売業の余剰人員を再教育して介護や医療、ITなど成長産業に移すべきだ」と指摘する。
小売業はこのまま衰退してしまうのか-。
令和元年9月、東京・日本橋にオープンした台湾の有名書店「誠品生活」は、書籍や生活雑貨といったモノ消費と、料理教室や吹きガラス体験などコト消費をうまくミックスし、消費者を呼び込んでいる。
同研究所の小方尚子主任研究員は、小売店の目指すべき姿をこう指摘した。
「生鮮品でなければ、ネットに太刀打ちしにくい。来店しないと楽しめない売り場を作り、消費者を引き付けられるかが鍵だ」(藤原章裕)