人気で“逆輸入”国産ホップ クラフトブーム追い風、ビール大手も支援
忘年会シーズンが近づいてきた。かつては「まずはビールで乾杯」だったが、近年は好みの多様化もあり、若者を中心にビール離れが進んでいる。一方、割高ながら個性的なクラフトビールは、海外から人気が広がっている。その味や香りの決め手となる原材料作物「ホップ」も注目され、減産が続いていた日本産へのニーズが高まっている。大手メーカーも国内ホップ農家の支援に本腰を入れ始めた。
1ヘクタールの畑に、地面から5メートル程度の高さまで垂直に伸びたホップの緑色のツルがずらりと並ぶ。ドイツ製の専用機材を付けた大型トラクターが進むと、爽やかな香りとともに吸い込まれた。約1800株の収穫作業を3時間半で終えた。
岩手県遠野市の農業法人、ビア・エクスペリエンス。キリンホールディングスも出資する同法人の吉田敦史代表は、ホップ生産が盛んなドイツの栽培法を取り入れ、大規模・集約型栽培の確立による生産拡大を目指す。
キリンビールなどによると、2005年の日本産ホップ生産量は497トンだったが、18年には202トンに半減した。同市は有数の産地だが家族経営の農家が多い。
ビア・エクスペリエンスが収穫したのは、キリンのホップ技術者、村上敦司氏が開発した品種「ムラカミセブン」で、イチジクやマスカットを思わせる香りが特徴的だ。日本生まれのホップに、個性や希少性を認める海外の醸造家からも問い合わせが多い。キリンは「ホップが見直されたのはクラフトビールのおかげ。海外で使われればブランド価値が上がる」と、数年後の輸出も視野に入れる。
キリンに次いで国産ホップの買い取り量が多いサッポロビールは今年、自社開発ホップ品種「ソラチエース」を使ったビールを発売した。1984年の開発当初はビールへの採用を見送ったが、時を経て米クラフトビールメーカーが原料として用いて世界的に知れわたった。今回は米国から“逆輸入”して製造している。
サッポロは、個性派ビール人気を受け、11月に北海道上富良野町の自社研究センターで品種開発した「フラノブラン」など4品種を使い、国産ホップ100%ビール4種の詰め合わせを通販限定で発売。商品開発を見据え、ホップ栽培委託の可能性も視野に入れる。
装置と材料があれば年に何度も造れるビールは他の酒類に比べ参入障壁が低く、国内クラフト醸造所は昨年には300を超え、増加中だ。調達価格が海外産より数倍高いともいわれる国産ホップを使うことが付加価値として認知されていけば、日本産ホップの復権とともに、若者をビールに呼び戻す原動力となりそうだ。(日野稚子)