ボロボロの状態でも残っていた“強み”
投資ファンドによる事業再建が一進一退を繰り返す中、13年6月に現社長の星崎尚彦氏(崎はたちさき)が就任する。
星崎氏が数年をかけて取り組んだ「社員の意識改革」が復活の大きな原動力になった。その手法については、多くのメディアや星崎氏の著書で紹介されているため、本記事ではビジネスモデルの改革に焦点を当てる。
赤字を垂れ流し、店は汚い、目新しい商品もない……。価格競争に敗れ、ボロボロの状態だった。しかし、そんなメガネスーパーにもまだ“強み”は残っていた。
それは「眼鏡専門店としての認知度が高く、昔から付き合いがある顧客がいること」。新規客は少なくなっており、顧客の7割は45歳以上。必然的にシニア層のデータが集まり、その客層に合った接客が磨かれていた。
「目」を取り巻く社会的な状況も、メガネスーパーの方向性の決め手になった。高齢化によって老眼対策をする人が増加。さらに、スマートフォンの普及によって、以前よりも目を酷使する人が増える状況になっていた。
メガネスーパーが打ち出さなければならないのは、「安い眼鏡」ではなく、「目の健康」ではないか。低価格では太刀打ちできない状況を踏まえ、大きな方向転換を決めた。モノではなくサービスで勝負する、ということだ。
その戦略を言語化したのが、現在も掲げる「アイケアカンパニー宣言」だ。
これまでに蓄積した「目の健康」に関する知見を生かして、質の高いサービスを提供する。そのためには、安売りを前提にしたビジネスモデルそのものを大きく変えなくてはならない。つまり、避けては通れない道があった。
それは、「レンズ代0円」をやめることだ。
「レンズ有料化」が受け入れられた理由
レンズを有料にすると、顧客にとっては急激な値上げになる。「お客さまが来なくなってしまう」と、現場の不安も大きかった。低価格の眼鏡が当たり前のように浸透している中で、星崎氏でさえもなかなか踏み切れなかった一手だったという。
星崎氏はその部分に着手することを決めると、すぐに結論を出さずに、まずは社内で議論をさせた。その結果として、「もう他に方法はない。レンズ代を有料にするしかない」という結論を導き出した。
そして14年6月、レンズ代の有料化に踏み切った。業界の関係者の間では「デフレの時代にどうかしている。ついに狂ったか」とささやかれたという。
しかし、この施策を「単なる値上げ」にしないための土台づくりはすでに進んでいた。他のどの店よりも「健康」に関するサービス品質を高めるため、「検査」を充実させたのだ。単なる視力検査ではなく、目の機能を測る眼体力や眼年齢、生活環境なども考慮した検査を実施し、最適な眼鏡を提案する。検査は最大52項目で、1時間かける。他社を大きくしのぐきめ細かさを実現していた。
そのメッセージは顧客に伝わった。自分にぴったりの眼鏡を提案された顧客の満足度は高く、メインターゲットの中高年を中心に支持されたのだ。15年春には、無料で実施していた検査も有料化した。1000円、2000円、3000円の3段階で、ニーズに合った検査を選んでもらえるようにした。
「プロとして対価をいただくべき、という考え方です。社員の専門知識がメガネスーパーの価値。そこを安売りしてしまうと、お客さまの不利益につながってしまう」(斎藤氏)
1年間の保証サービス「HYPER保証」に加え、月300円で3年間保証する「HYPER保証プレミアム」など、付帯サービスも充実。HYPER保証プレミアムでは、3年間保証を利用しなかった場合、1万800円分の商品券がもらえる。買い替えの際にまた来店してくれるという好循環が生まれている。コンタクトレンズ用品を定期的に配送する「コンタクト定期便」の利用者も増え、収益に貢献しているという。
現在の客単価は3万6000円。赤字だった11年には1万8000円にまで落ち込んでいた。今では、新規客の半分ほどは低価格店から移ってくるという。メガネスーパーのサービスを求めて来店する人が増えているのだ。