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ライブビューイング拡大の秘密 水樹奈々、1D…ファンを呼び込む巧みな仕掛け

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ライブビューイング拡大の秘密 水樹奈々、1D…ファンを呼び込む巧みな仕掛け

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デジタルハリウッドで講演するライブ・ビューイング・ジャパンの久保田康社長  映画館が、映画だけを見る場所でなくなっている。音楽のコンサートやオペラ、ミュージカル、スポーツといったイベントを生中継するほか、編集後に上映する「ライブビューイング」にも使われ、大勢の観客を集めるようになった。なぜライブビューイングは人気なのか。専門会社として数々の注目イベントを仕掛けるライブ・ビューイング・ジャパンの久保田康社長が、9月末に行われたデジタルハリウッド大学の講演で、その秘密を解説した。

 「水樹奈々」「X JAPAN」「ONE DIRECTION」…。9月から10月にかけ、映画館でライブビューイングを行った有名アーティストたちだ。「X JAPAN」のライブビューイングは、ニューヨークのマジソン・スクエア・ガーデンで行われたライブを日本に生中継。時差の関係から、午前9時開演という普通のライブではあり得ない時間にスタートしたにも関わらず、ライブ会場と同様に着飾ったファンが、全国の映画館に詰めかけた。

 「コアなファンが、本会場で見られないライブを各地の映画館で鑑賞できます」。そう久保田社長が指摘するように、人気が高くでチケットが入手困難なアーティストのライブを、会場にいなくても体験できる場として、ライブビューイングの需要が高まっている。

 デジタルコンテンツ協会がまとめた「デジタルコンテンツ白書2014」では、日本映画製作者連盟の調査を元に、ライブビューイングの市場規模を13年は33億円と推計し、14年は50億円規模にふくらむと見ている。

 これに対して久保田社長は、同連盟の統計に入らない興行も含めて「200億円規模には行くのでは」と予想する。そもそもライブ・ビューイング・ジャパンは、そうした需要を見込んで11年、大手芸能事務所のアミューズが中心となって設立された。現在は、レコード会社や映画会社などの出資を得て、有力アーティストのライブビューイング行っている。

 現地で実際にライブを見る方が、ファンにとっては嬉しいことに変わりはない。ただ、席によってはステージが遠く、音も姿もあまり見えない場合がある。ライブビューイングなら、映画館の大きなスクリーンを通じて「セットの全容や出演者のアップなどが手に取るようにわかります。本会場以上の見やすさに感動される方もおられます」と久保田社長はメリットを話す。

 加えて、ライブ・ビューイング・ジャパンでは、劇場などで鑑賞する人たちに向けた専用の映像やサービスを用意し、現地に行けないデメリットを補う感動が得られるようにしている。ライブ会場には、放送用やパッケージソフト用のカメラが入っている場合が多く、中継ではそうした映像を借り受けることになるが、「スイッチング(カメラの切り替え)が早かったり、カメラをぶらして撮ることがあり、これを映画館で見ると目がチカチカします。そこで映画館はこう見えるから、こういうスイッチングをしてくださいとお願いしたり、独自にスイッチを入れて、引きのカメラでステージ全体を映したりしています」。

 一方で、ライブ会場で行われるテープを発射するような特殊効果をライブビューイング会場でも行い、会場との一体感を出すこともある。「あらかじめ細かい進行表をもらって、どのタイミングで特効を行うかを調べておきます」。現地からアーティストに、劇場の観客に向けてメッセージを送ってもらったり、ライブ終了後のインタビュー映像を中継したりと、ライブビューイングの魅力アップに努めてきたことが、今の隆盛につながっている。

 劇場の側に、ライブビューイングを受け入れる下地が整ってきたことも、市場拡大の追い風になっている。シネマコンプレックスの増加でスクリーン数は増えたが、そのすべてが満席というわけではない。久保田社長によれば「トータルの年間の稼働率は24、5%くらいでしょう。それなら映画館としても、ライブコンテンツを中継する方が売上が立ちます」。もうひとつ、ケーブル回線や衛星を通じて、ライブ映像を中継できる劇場やライブハウスが増えたことも、実施回数の増加を後押ししている。

 ライブ会場に行けないファンにとって、ライブビューイングは同好の人たちといっしょに盛り上がれる場として、重要な位置を占めるようになっている。興行主にとっても、収容人員に限りがあるライブ会場の外に大勢の観客を集め、有料でライブを見せることで、新しい収益機会を得られる。映画館などライブビューイングの会場も、確実にファン層が見込めるコンテンツを上映でき、グッズ販売も含めた売上を期待できる。

 クールジャパンと呼ばれる日本製コンテンツの海外展開にも、ライブビューイングは利用できると久保田社長は話す。「海外で日本と同じ規模のライブを行えないアーティストでも、ライブビューイングを通じて海外の人にパフォーマンスを見てもらえます」。そこから本格的な海外進出の足がかりが得られる。多方面にメリットがあるライブビューイングだけに、まだまだ伸びていきそうだ。

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