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「防災住宅」が成長戦略の牽引役に 中古市場の活性化に期待

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「防災住宅」が成長戦略の牽引役に 中古市場の活性化に期待

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全住宅の流通量に占める中古住宅の割合 【成長ニッポン】

 首都直下型地震や南海トラフ巨大地震への懸念が広がる中、住宅各社は防災性に優れ、災害時に“自立”できる商品の売り込みに力を入れている。質の高い住宅の普及に拍車がかかれば、大震災時の人的被害を大幅に抑えられるだけでなく、中古住宅の流通市場を活性化、政府の成長戦略の牽引(けんいん)役にもなりうる。

 「強靱化計画」見据え

 国の有識者会議によると、首都直下型地震が発生した場合、死者は最悪で約2万3000人に上る。しかし国土強靱(きょうじん)化を担当する古屋圭司防災担当相は「しっかり対応していけば、恐るるに足りない」と強調する。耐震性がない住宅は全体の約2割に相当する1000万戸。東京の木造住宅密集市街地にも“不適合”住宅が集積しているが、耐震性に優れた住宅に切り替われば死者は9割減るという試算があるからだ。

 5月には防災・減災を目的とした国土強靱化基本計画が定められる。これを機に、耐震性がない木造住宅の建て替えが顕在化するとみられており、住宅各社は防災住宅の販売に力を入れる。

 東京都内の代表的な木造住宅密集市街地である中野区の鍋屋横丁。その一角に旭化成ホームズ(東京都新宿区)は「街かどヘーベルハウス」を建てた。この建物はいわば、街の“住宅展示場”。一定期間にわたって内部を公開した上で売却する。

 ヘーベルハウスは、防火性の高さが売り物。池田英輔社長が「本当に安全な家を造った」と断言する自信作だ。随所にその特性が反映されており、その代表例が「うだつが上がらない」の語源である「うだつ」。日本家屋の屋根に取り付けて防火の役割を果たす小柱で、道路側の開口部に延焼火災から守る二重壁のうだつを設置した。

 ライフラインの断絶も想定。太陽光による発電と蓄電によってエネルギーの自給を目指す。

 1995年の阪神大震災では、周辺住宅が倒壊したり焼失したりする中、ヘーベルハウスは防災性を武器に周辺住民の臨時避難所として活躍した。この経験を踏まえ「ここシェルター」という機能を提案。米や飲料水、カセットボンベ、ポーチトイレなど近隣住民100人が3日間必要とする必需品を備蓄する。

 LIXIL住宅研究所(東京都江東区)も、地域の防災拠点となる「レジリエンス住宅」を提案する。葛飾区にあるモデルハウスでは、非常時にも約1カ月にわたり日常に近い生活を送ることができる家をアピール。象徴的な設備が液化石油ガス(LPG)をためた機器で、停電時でも電力を供給する。

 評価指針定着に力

 防災住宅など高い機能性を備えた質の高い住宅の整備は、中古住宅流通市場を活性化させる好機でもある。

 日本は建物に対する評価が低く、流通市場の阻害要因となっていた。2008年における全住宅流通量に占める中古住宅の割合は13.5%。上昇傾向にあるものの、欧米の65~90%に比べると圧倒的に低い。

 このため国は、市場の活性化に向けて新たな建物評価指針の定着に力を入れている。防災性に優れた住宅が普及し、品質を維持していこうとする考えが国民に定着すれば、こうした流れを後押しする可能性が高い。結果として好条件の売却で得た資金による消費の増大や、リフォーム投資を通じた経済の好循環が期待できる。

 国土強靱化基本計画の策定にかかわる金谷年展(かなや・としのぶ)・東京工業大ソリューション研究機構特任教授は「住宅は個人財産という前提にあった。しかし、強靱化対策のもとで住宅は公器。中古住宅流通市場の新たな活性化に向けた一歩を踏み出すことになる」と指摘。古屋防災担当相も「官民挙げて100年、200年持つ住宅に変えていく必要がある」と語る。防災性に優れた住宅は国民の安全を守るだけでなく、内需型の成長戦略の原動力となる可能性を秘める。(伊藤俊祐)

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