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【開発物語】マンダム「ルシード デオドラントシリーズ」
更新
「ルシードデオドラントシリーズ」にはシャンプーとボディーソープ、スプレー、液状タイプの4種類がある ■ミドル男性特有の臭い撃退へ新機軸
≪STORY≫
自分の臭いが気になる30~40代のミドル男性に朗報だ。マンダムは、ミドル男性向け化粧品「ルシード」に、独自のアプローチで不快な臭いを抑えるデオドラント商品を加えた。一般的な汗でも加齢臭でもない、ミドル男性特有の「第3の臭い」を突き止めたことが新機軸につながった。
「加齢臭とは明らかに違うぞ」。マンダムの技術開発センターで臭いに関する基礎研究を行っていた志水弘典・基盤技術開発室グループリーダーは、趣味のフットサルを終え、着替えていたときにふと思った。
そこは体育館の更衣室で、社交ダンスの愛好者も利用していた。社交ダンスはシニア世代の愛好者が多く、志水さんを含め、ミドル世代が多いフットサルとでは、まったく臭いが異なっていた。
中年男性の臭いはそれまで、加齢臭という言葉で上の年代とひとくくりにされてきた。加齢臭は「2-ノネナール」と呼ばれる物質が原因で発生し、その臭いはよく「古雑誌」や「押し入れの中」に例えられる。だがミドル男性が密集した更衣室にはそれとは違う、「脂っぽい、もわっとした臭い」が漂っていた。
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一般の男女にアンケートをとってみると、実際に8割が「40代と60代の臭いは違う」と感じていた。しかも身近にいる男性について「何歳ぐらいまでそういう臭いを感じるか」と聞いたところ、約半数が「40代」と回答。50代になってから出やすい加齢臭とも、20代をピークに減少していく一般的な汗の臭いとも年代が異なっていた。
さらに頭部周辺から臭うと感じる人が多く、加齢臭の発生源とされる耳の裏からはあまり感じていないことも分かった。
臭いの正体を突き止めるべく、志水さんら基礎研究担当と製品開発担当が総出で原因物質の特定に乗り出した。
人の頭や枕カバーに付着した臭いを「におい嗅ぎガスクロマトグラフ質量分析装置」にかけ、そこに含まれる100種類以上の成分について、しらみつぶしに調べていった。1つのサンプルに含まれる成分をすべて分析するのにかかる時間は約90分。せいぜい1日2本が限界だった。
そのうえ幅広い人からサンプルを集め、正確な臭いの発生部位まで確認しなければならない。人によって臭いの量に差があることも早期の特定を妨げた。
結局、加齢臭とは別物と気づいてから原因物質を特定するだけで3年の月日を費やした。
開発チームが苦心の末に突き止めた臭いの正体は、「ジアセチル」と呼ぶ物質だった。
ジアセチルは、バターやチーズなどの乳製品にも含まれている。一定の範囲内で存在する限り、特に不快は感じない。ただ、人間の皮脂と混ざった途端に臭いがきつくなる。周囲に拡散しやすく、量が増えるとさらに不快さが増す。
日本酒の醸造では、酵母を発酵させる際に雑菌が混じるとジアセチルが生じ、「つわり香」「火落香」と呼ばれ忌み嫌われている。
さらなる研究で、女性の方がより不快に感じやすい事実も判明した。このジアセチルを“退治”すれば、画期的なミドル男性向けのデオドラント商品が生み出せる。
◇
だが、ここで別の壁が立ちはだかった。
単にジアセチルの臭いを抑えるだけなら、香水のように香料で臭いを覆い隠してしまえばよい。その方が臭いがしなくなったという実感も得やすい。しかし、ルシードは無香料が売りのブランドだ。安易に香料を使うわけにはいかない。一時はブランドのコンセプトを修正することも考えたが、「やはり『無香料のルシード』で商品を届けたかったし、対症療法だと根本的解決にならないからあかんよなと思った」と志水さんは振り返る。
そこで同社は、人間の頭皮に常在する表皮ブドウ球菌や黄色ブドウ球菌が、汗に含まれる乳酸を代謝することでジアセチルを発生する仕組みを解明。ジアセチルが皮脂に混ざることで不快な臭いが発生することを突き止めた。さらに、この不快な臭いを効果的に抑制する数種類の成分を見いだし、製品に応用した。
一方、ミドル男性の頭の皮脂はベトベトして落ちにくいため、シャンプー後も不快な臭いがとれにくかった。このため皮脂を効果的に洗い落とす洗浄剤の組み合わせも併せて考案した。
せっかく原因物質を突き止めても、第3の臭いの存在を世間に認知させなければ商品を手にとってもらえない。同社はこのジアセチルによる臭いを「ミドル脂臭」と分かりやすく名づけたほか、俳優の田辺誠一さんと大塚寧々さんの夫婦を21日に放映開始したCMのキャラクターに起用した。
宣伝販促部宣伝課の杉本亘主幹は「ミドル男性の田辺さんだけでなく、大塚さんにも登場してもらうことで、妻からも対策を促すよう狙った」と説明する。
ミドル男性は、働き盛りで得意先を訪問する機会が多いこともあり、身だしなみへの関心が高い。自分の臭いにも敏感で、デオドラント商品を最も使っているのがこの世代だという。
「44歳の自分も含め、40代は人生も仕事も一番充実している時期なのに、臭いといわれるのは忍びない。仕事、家庭で自信をもって生活できる手助けとなる製品ができた」。志水さんはそう胸を張る。
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■“体を張って”原因物質の特定に挑む
≪TEAM≫
「ルシード デオドラントシリーズ」は、技術開発センターに属する基礎研究3人、製品開発10人のメンバーが全員、“体を張る”ことで生まれた。
開発チームがミドル脂臭の分析に使った「ガスクロマトグラフ質量分析装置」は、原因物質を特定する上では大いに役立った。しかし、臭いの発生部位や不快の度合いを詳細に調べ上げるには、機械だけでは限界がある。そこで開発チームのメンバー全員がミドル男性の臭いを直接、嗅ぐことにした。
臭いがきつい人もサンプルに含める必要があったため、社員を被験者にすれば社内がぎくしゃくしかねない。このため被験者は募集会社を通じて集め、名前や住んでいる場所を伏せた上で嗅がせてもらった。
臭いの感じ方は人によってばらつきやすく、メンバーの嗅ぎ分ける能力を高いレベルで一致させる必要があった。そこで同社は、工場などの悪臭を測定する臭気判定士の試験にならい、5種類の紙のうち臭いのついた2種類を当てたり、強度に応じて6段階に嗅ぎ分ける訓練を実施した。中には基盤技術開発室の志水さんをはじめ、実際に臭気判定士の資格を持つ人も4人いる。
それでも被験者が多いこともあり、データの収集やメカニズム解明は困難を極めた。清水真由美・スキンケア製品開発室グループリーダーは「前に整髪剤の開発を担当し、香料を扱っていたのである程度は分かっていたつもりだったが、臭いの世界は複雑だと改めて思った」と振り返る。
ミドル脂臭の不快さには「決して平気なわけではなかった」が、プロ意識が優先したのか「意外と冷静に対処できた」という。ただ、中には苦痛に感じるメンバーもいたようだ。
開発期間は7年に及び、メンバーが臭いを嗅いだ人の数は延べ800人に達した。多くの人の臭いを嗅いだ分だけ、商品に説得力を持たせることができた。清水さんは「開発しながらこれは心の健康商品でもあると再認識した。チームの苦労が伝われば」と望む。
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■団塊ジュニア世代、消費をリード
≪MARKET≫
民間調査会社の矢野経済研究所によると、2012年の国内男性用化粧品市場は前年比2.8%増の1095億円。規模こそ女性用の20分の1以下にすぎないが、伸び率では上回っている。
昔の男性用化粧品は、育毛促進剤と白髪染めを除けば、整髪剤と洗顔料がある程度だった。しかし、最近は商品ラインアップが拡大。臭いを抑えたり、体を清潔に保つことを狙ったボディケア商品の売れ行き好調が特に目立つ。
マンダムによると、デオドラントスプレーなどの防臭効果を持つ制汗商品は、12年度の市場規模が08年度比で42.6%拡大。頭皮ケアシャンプー・リンスは2.2倍、ボディーソープに至っては8倍以上と一気に増えた。
こうした商品の購買層は30~40代のミドル男性が中心だ。若いころから整髪剤に慣れ親しんだ団塊ジュニア世代が40代に突入し、さまざまな商品を日常的に使うようになった結果、整髪剤の使用頻度が高い若年層の人口減少を補っている。
働き盛りのミドル男性は社内外で「見られる」機会が多く、身だしなみに対しては若い人以上に敏感だ。「男性用化粧品は若者向けのもの」という以前の常識は、もはや通用しなくなっている。
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≪FROM WRITER≫
「消費者の期待と自分たちにできることの差が開いていく」。ある自動車メーカーの開発担当者から、苦渋に満ちた表情でそう打ち明けられたことがある。
確かに、技術がここまで進歩し、アイデアが出尽くした今の時代にあって、消費者の目を見張らせるような新規性のある商品を生み出すのは至難の業だ。そう考えると、ミドル脂臭の存在を突き止め、対策を施した「ルシード デオドラントシリーズ」がいかに価値のある商品かが分かる。おまけに心理的不安も取り除いてくれるのだから、なおさらだ。
最近は電車に乗り、席が空いていても座らなくなっていた。健康のためにそうしているのではなく、むしろ座りたいのだが、それ以上に自分の臭いが気になるからだ。ミドル男性の一人として、ありがたく使わせていただくことにしよう。(井田通人)
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≪KEY WORD≫
■ルシード デオドラントシリーズ
マンダムが1989年から販売している30~40代のミドル男性向け化粧品ブランド「ルシード」で、2月24日に発売した新シリーズ。ミドル男性特有の臭いに着目し、一般的な汗の臭いと加齢臭を加えた3つの不快なニオイをすべて抑え込むことを目指した。ルシードの他の商品同様、香料を一切使っていないのも特徴。シャンプーとボディーソープに加え、スプレーと気になる部分に直接塗る液状タイプの4種類がある。価格は税別で800~1450円。