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「3日持つ」富士通の新型スマホ 液晶・CPUの省エネ技術を追求
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富士通の実装技術が集大成されたヒューマンセントリックスエンジン(HCE)の基盤(富士通提供) 富士通が2013年冬春モデルとして開発した新型スマートフォン(高機能携帯電話)「ARROWS(アローズ)NX F-01F」は、スマホにとって最大の欠点ともいえる電池切れの速さを徹底的に改善した戦略モデルだ。
通常のスマホなら1日ももたないケースが多いなかで、F-01Fはフル充電すれば平均的な使用で最長3日間使える。NTTドコモが10月24日に発売して以来、ユーザーの評判も上々だ。
ドコモが設定した「平均的な使用」とは、ウェブ検索40分、電話・メール20分、ゲーム・動画15分など1日合計80分の使用を前提とし、待受時間を含めて3日間稼働するという測定基準に基づいている。電池容量は13年夏モデルの3020ミリアンペア時から3200ミリアンペア時に6%弱しか増えていないが、約50%の省エネ化を達成した。
その最大の成果は、高輝度でも省電力を実現する新開発の液晶ディスプレー「ホワイトマジック」を初搭載した上、心臓部に当たるCPU(中央演算処理装置)の稼働状況を最適制御する「ヒューマンセントリックエンジン(HCE)」で省エネを追求したことだ。
ジャパンディスプレーが開発したばかりのホワイトマジックは通常のR(赤)、G(緑)、B(青)の3色の画素のほかに、W(白)の画素を加えたことが最大の特徴だ。このW画素が画面の明るさを効率的に上げるため、通常の液晶より格段に消費電力を抑えることに成功した。ホワイトマジックを搭載したスマホはF-01Fが第1号機。それだけに性能を達成するための作業に苦労した。
モバイルフォン事業本部の豊蔵裕之シニアマネージャーは「昨夏に納入されたときは、表示品質や省エネ性能などが想定の目標に達していなかった」と苦笑する。
両社の技術者が共同で改善に取り組んだ。液晶のノイズを抑えるためにフィルターを装着したら消費電力が跳ね上がるなど試行錯誤を繰り返したが、「初めてのディスプレーなのでリスクは覚悟していた」(豊蔵氏)。
スーパーコンピューターからパソコンまで手掛ける富士通の実装技術も、手のひらサイズのスマホに隅々まで生かされている。HCEは夏モデルで最初に搭載された技術だが、今回はさらにCPUの消費電力をきめ細かな制御によって徹底的に押さえ込んだ。
例えば、クロック周波数と呼ばれるCPUの演算速度を左右する動作周期は高速になると段階的に消費電力が増えるが、「どのポイントで上がるかを見極めて直前に速度を落とす制御技術」(豊蔵氏)を導入、電力効率を最大限に引き上げた。
実際に稼働するモデルができて性能のチェック作業が始まったのは夏になってから。モバイルプロダクツ統括部の今村誠シニアマネージャーは「製品企画は1年ほど前から始まるが、発売日に近い9月半ばまで評価作業の追い込みが続いた」という。
富士通がスマホの省エネ技術に本格的に取り組み始めたのは実は1年ほど前から。「昨年までは電池の持ちが悪かった」(豊蔵氏)が、夏モデルから方針を転換。F-01Fでさらに進化させた。この開発に投入した専任技術者は100人前後。兼任も合わせると約1000人が関わった。F-01Fで実現した省エネ技術は「主要機種にも展開したい。電池の寿命もせめてウイークデーの5日間は目指したい」と豊蔵氏は目を輝かせる。(芳賀由明)