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柏崎刈羽、再稼働へ正念場 福島の汚染水深刻化 管理能力に厳しい目
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東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に向けた流れ
東京電力が、経営再建の大前提となる柏崎刈羽原子力発電所6、7号機(新潟県)の再稼働に向けた安全審査の申請にこぎ着けた。東電は来春以降の再稼働を目指し安全対策を急ぐが、福島第1原発の放射能汚染水漏れ問題が深刻化。原発の管理能力に対し、厳しい目が向けられている。汚染水問題、原子力規制委員会による審査、新潟県の同意という3つの壁が立ちはだかる中、正念場を迎えている。
「昔は日本海のきれいな眺めが見渡せたんですが…」
柏崎刈羽原発所員は感慨深げにこう漏らした。2007年の新潟県中越沖地震後、東電は約2000億円を投じて耐震強化工事を進めてきたが、11年の東日本大震災と福島第1原発事故を契機にさらなる安全対策が求められ、発電所を変貌させた。
その象徴ともいえる存在が、今年6月に完成した海抜15メートル、全長2.5キロの防潮堤だ。東電は想定する津波の高さを3.3メートルから8.5メートルに変更。要塞を思わせる防潮堤は海の眺めをさえぎる代わりに巨大津波を防ぐ“守護神”となる。
原子炉建屋の側では、過酷事故時に格納容器の圧力を下げるため、放射性物質の流出を最小限に抑えながら気体を逃すフィルター付きベント(排気)設備の基礎工事が進む。原発の新規制基準で、設置が義務づけられた新設備だ。
格納容器が大きく、圧力が高まるまで時間的に余裕のある加圧水型軽水炉(PWR)では、5年間の猶予期間が認められているのに対し、柏崎刈羽など格納容器が小さめの沸騰水型軽水炉(BWR)では再稼働の必須条件となる。6、7号機では来春までの完成を目指す。
さらに、原子炉建屋の浸水を防ぎ、緊急時には原子炉を冷やすための淡水の貯水池(2万トン)の設置といった対策も行われている。
原発1基の再稼働は、東電に年間1200億円の収支改善をもたらす。今月末、三井住友銀行や地銀など28金融機関からの約770億円の融資の借り換え期限を迎えるが、28金融機関は借り換えに応じると東電側に伝えた。11~12月には、昨年5月に政府認定された総合特別事業計画を見直した新たな収支計画を策定し、年末にも3000億円の新規融資を受けたい考えだ。
こうした再建シナリオを描く東電にとって、頭痛の種は福島第1の汚染水問題だ。
8月に汚染水を貯蔵している地上タンクから300トンとみられる高濃度汚染水漏れが発覚。今月2日には雨水を移していたタンクから汚染水が漏れ、その一部が港湾外の海に流出する事態が生じた。新たな汚染水処理設備「多核種除去設備(ALPS)」の停止といったトラブルも続いている。
規制委の田中俊一委員長は今月7日、汚染水問題をめぐる参院経済産業委員会の閉会中審査で、柏崎刈羽の審査について、「福島の状況は、国民の納得できる程度の落ち着きのない状態だ。どういうふうに進めるかは慎重に検討させていただく」と発言。柏崎刈羽の安全審査より福島第1の汚染水問題を優先すべきだとの立場を示した。
審査では、敷地内の活断層の有無も焦点になる。
かつて、旧原子力安全・保安院は「活断層の判断にはデータ不足」と指摘。東電は「断層は20万年前以降動いておらず、活断層ではない」と主張するが、規制委が根拠不十分と判断すれば再調査を求められ、審査が長引く可能性もある。
仮に審査に「合格」しても、問題が解決するわけではない。工事中のベントについて、新潟県の泉田裕彦知事は耐震性を問題視し、設置に難色を示していた。東電は地震時の揺れを抑えられる地下式の「第2ベント」も備える対案を出したものの、泉田知事はベントの運用開始には県の了解を得るよう東電に強く求めている。
柏崎刈羽の横村忠幸所長は「自治体が策定する計画に積極的に協力したい」とし、知事との溝を埋めたい考えだ。
再稼働が遅れても、送電設備の修繕工事を14年度に繰り延べるなどして、東電は13年度に黒字化を達成する構えを見せる。ただ、年明け以降も再稼働の見通しが立たなければ、電気料金の再値上げという事態が現実味を帯びる。来春、消費税率が8%に引き上げられる中、柏崎刈羽の再稼働の遅れは国民生活を直撃する死活問題になりかねない。(宇野貴文)