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飽きた?失速するソーシャルゲーム 不変の法則「面白くなければ売れない」
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国内初公開となったソニーの「プレイステーション4」には人だかりが=9月19日、千葉市の幕張メッセ 9月19~22日に千葉市の幕張メッセで開催された世界最大規模のゲーム見本市「東京ゲームショウ2013」で驚くべき“逆転劇”が起こった。昨年はモバイル端末向けのゲームの展示が急増し、ソーシャルゲームの存在感が高まったが、今年はソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)や米マイクロソフト(MS)が新作機を披露し、家庭用ゲーム機市場が大盛況、主役が交代した。市場を急拡大したソーシャルゲームだが、専門家からはゲームファンの多くが“飽き”を感じているという指摘も少なくない。
「グリーのブース?全く見てません。素通りして、ソニーのブースに急ぎましたよ」
東京ゲームショウ初日に来場した20代の業界関係者の男性は、こともなげにこう言った。お目当てはSCEが来年2月に発売する「プレイステーション(PS)4」と、米マイクロソフト(MS)が今年12月に発売する「Xbox One(エックスボックス・ワン)」だ。
特に東京ゲームショウで国内初公開されたPS4の実機は注目をさらい、PS4向け新作ゲーム「ディープダウン」(カプコン)の試遊スペースは初日から長蛇の列ができた。
逆に、グリーなどソーシャルゲームメーカーのブースは「ソニーやMSに比べ、目に見えて少ない。昨年の勢いを失っている」(来場者)という指摘が少なくない。
今回の東京ゲームショウで来場者を驚かせたのは、スマートフォン(高機能携帯電話)向けゲームで莫大(ばくだい)な利益を上げてきたはずの企業まで、家庭用ゲーム機向けの商品をアピールする形になったことだ。
約8年ぶりに出展した、スマホの人気ゲーム「パズル&ドラゴンズ(パズドラ)」を運営するガンホー・オンライン・エンターテイメントは、今年末に発売される任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドー3DS」向け「パズドラZ」の体験版を公開。
他にも、ソニーの携帯型ゲーム機「PS Vita(ヴィータ)」や、家庭用ゲーム機「プレイステーション(PS)4」向けソフトを出展し、ソーシャルからの路線転換を強調した。
同社関係者は「スマホとゲーム機双方の軸足を持つ強みを強調したかった」としているが、ゲームに詳しいある専門家は「スマホゲームが衰退したときの“逃げ道”を模索している」と指摘する。
1年ほど前は、飛ぶ鳥を落とす勢いだったソーシャルゲームメーカーの業績は下降ラインをたどっている。
グリーは平成25年4~6月期連結決算で、不採算ゲームの開発・運営の取りやめや海外拠点の閉鎖で102億円の特別損失を計上し、3億円の最終赤字に陥った。四半期ベースでの赤字は上場以来初めてで、25年6月期の年間配当も初の減配を余儀なくされた。
DeNAも、4~6月期の連結営業利益は前年同期比7・6%減の169億円にとどまった。
ソーシャルゲームメーカーに勤務した経験を持つ開発者の男性は「ソフトを購入しなくても、スマホさえあれば無料で遊べるという気軽さが幅広いゲーム層を獲得した」と評価したが、「気軽さと飽きやすさは表裏一体」とも指摘する。
数年前からソーシャルゲームを始めた層が、そろそろシンプルな操作性などに飽きを感じ、複雑な機能を搭載した家庭用ゲーム機に回帰しつつある可能性が高いというのだ。
それでもスマホ本体の普及が見込めるため、ソーシャルゲーム市場の伸びは今後も期待されるのも事実だ。
スマホにダウンロードして遊ぶ「アプリゲーム」の世界市場規模は2012年の50億ドル(約4910億円)から、16年には290億ドルに拡大する見通し。従来型携帯電話で成長してきたグリーは昨年、スマホ専業のポケラボを傘下に収めるなど、スマホ対応を加速している。
業界関係者は「とにかく決め手はソフト。ソーシャルであってもゲーム機であっても、これだけは変わらない」と指摘する。
最近のゲームプレーヤーはゲームの形態にこだわらず、遊びたければ必ず購入する傾向があるという。逆を言えば、どのゲーム市場も売れないソフトが命取りになりかねないのだ。
「面白いゲームが出れば、ハードも売れる」。くしくも、東京ゲームショウ開幕日に死去した山内溥・任天堂前社長の言葉は、あらゆるタイプのゲームに共通した“法則”になりそうだ。