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ホンダ、トヨタに3度目の挑戦 悔しさバネにHV技術に磨き

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ホンダ、トヨタに3度目の挑戦 悔しさバネにHV技術に磨き

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ホンダが9月上旬に発売する新型「フィット」  ホンダがハイブリッド車(HV)の分野で独走するトヨタ自動車に3度目の挑戦状をたたきつけた。

 ホンダはトヨタの「プリウス」打倒を目指し、それぞれ1999年に「インサイト」を、2009年に2代目インサイトを投入したが、電気モーターを補助動力と割り切ったことがあだとなり、トヨタの独走を許してきた。

 今回、9月発売の「フィット ハイブリッド」は低・中速での走行時には高出力のモーターだけで走行できるシステムを開発し、世界最高効率の燃費を実現。本格的なハイブリッド技術を武器に雪辱を期す。

 「1997年にプリウスが出たときの衝撃は忘れられない。長く開発の仕事に携わってきたが、初めて『完全にやられた』と思った。正直悔しかった」。本田技術研究所の中村芳則主任研究員は、こう振り返る。

 この悔しさが、今回の新型ハイブリッドシステム開発へのバネとなり、ガソリン1リットル当たり36.4キロの世界最高効率のHVの開発につながった。

 今回のフィットのハイブリッドシステムに開発陣は自信を示す。同研究所の国包輝誠主任研究員は「エンジンは、動力を伝達する歯車と歯車の伝達効率が高く、電気モーターが余分作動をしないことなどが特徴となり、燃費性能を従来比で35%高められた」と解説する。

 別の技術開発担当者は、ライバルであるトヨタのハイブリッドシステムについて、「発電モーターと駆動モーターが歯車でつながっていて、シーソーのように、一方の回転が上がれば別の一方が下がるなど、発電、充電、駆動をうまくやっている」と評価した上で、「駆動だけをしたい場合でも、効率のロスが必ず発生する。このため伝達効率はフィットの方が優れている」と説明。

 「室内空間を狭くして、形を変えるなどすれば、燃費40キロは達成できたが、バランスを考えた」と明かした。

 ただ、ここに至るまでの道のりは決して平坦(へいたん)ではなかった。

 97年12月発売のプリウスは、世界初の量産HVとして産声を上げ、従来車に比べ燃費を一気に2倍に向上させるなど、ホンダの技術陣を驚かせた。

 しかも、発進、低速時は電気モーターで走り、スピードが上がるとエンジンが作動し、急加速や急坂ではモーター動力も加わる仕組みを採用するなど、基本動作は今でも変わらない技術をこの時点ですでに確立していた。「ホンダに比べ、トヨタのハイブリッド技術は圧倒的だった」(証券アナリスト)。

 リッター40キロへ競争白熱

 これに対しホンダは、1999年11月にインサイトを発売。山道や高速走行には、エンジン走行の方が効率が高い点に注目し、電気モーターを補助動力にする方式を採用。ガソリン1リットル当たりの燃費性能は35キロ(当時の燃費モード)と世界最高効率を達成した。

 しかし、定員がプリウスの5人に対しわずか2人となったこともあり、発売から約7年で1万7000台と低迷。97年から約6年販売した初代プリウスの12万台に大きく水をあけられた。

 2009年2月に投入した2代目インサイトでは普及を優先するため、4人乗りとしたことに加え、燃費効率よりも価格を重視する方針に切り替え、200万円を切る189万円を設定した。

 しかし、自力に勝るトヨタは、同年5月、205万円で3代目プリウスを発売。同時に、本来なら型落ちとなり販売を中止する2代目プリウスを約40万円以上も引き下げ、インサイトと同一価格で販売するという荒業を仕掛けた。これによって、ホンダの先進イメージは完全に薄れ、HV市場はトヨタの独壇場となった。

 しかもトヨタは当時、ユーザー向けのカタログには、車名こそ伏せたものの、容赦ない漫画の比較広告を掲載。それぞれトヨタのHVを筋肉質の自転車レーサー2人に、ホンダのHVを眼鏡をかけた頼りない中年男性と幼い子供に見立てて自転車で競う姿を対比させ、ホンダを挑発した。

 今回、ホンダが新たなハイブリッドシステムを開発したことで、「トヨタとホンダの技術力の差はほとんどなくなった」との声は多い。

 トヨタも現時点での最高燃費を誇る11年発売の「アクア」(35.4キロ)を改良し、燃費トップの座を奪回する可能性が高いものの、大差をつけるのは難しいとみられている。ホンダとトヨタは今後、最高燃費40キロを目指すことになり、技術開発競争は一段と白熱しそうだ。(飯田耕司)

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