ニュースカテゴリ:企業メーカー
ドコモ「ツートップ」戦略で再編加速 “下位”指定メーカーに危機感
更新
国内携帯電話メーカーが岐路に立たされている。スマートフォン(高機能携帯電話)の国際競争の波にさらされてもがく一部メーカーに、NTTドコモが導入した「ツートップ戦略」が追い打ちを掛けたからだ。海外メーカーとの競争で苦戦し収益が悪化するメーカーは、生き残りをかけ、ライバルとの統合も伴う抜本的な事業見直しを迫られている。
「唐突な印象を持っている。早急に対策を立てたい」。ドコモがツートップ戦略を発表してまもなく、携帯電話事業などを担うパナソニック・AVCネットワークス社の宮部義幸社長はアナリスト向けの事業説明会で危機感をあらわにした。
ドコモのツートップ戦略は、ソニーと韓国サムスン電子のスマホの最新機種を「ツートップ」と位置づけ、販売奨励金を重点的に投入、実質的に他の機種に比べて大幅な値引きをするというものだ。人気の上位2機種の優位が一段と強まり、“下位”指定されたメーカーには年間の販売目標の下方修正も強いられる厳しい事態となった。
実際、ドコモが戦略を発表した5月半ばから約1カ月半の各メーカーの販売台数は、ソニーが83万台、サムスンが40万台に達したのに対し、シャープと富士通は7万台、パナソニックとNECは1万~1万5000台にとどまった。
「ドコモは、どのメーカーの製品も等しく売る、これまでの調達方針を昨年度から変えてきた。(ツートップにかける)広告出稿の頻度も露骨だ」(国内端末メーカー幹部)といった恨み節さえ聞こえるほど、ドコモの戦略による販売差が色濃く反映された。
このため、各メーカーは、突如の事業戦略の変更や他社との統合など事業再編が不可避の情勢となっている。
早急に対応に動き出したのはパナソニック。ドコモの今冬商戦向けの新型スマホの開発は見送る方向で、堅調な需要を見込む法人向けスマホの新製品開発などに経営資源を集中する。
携帯電話事業に関しては「(事業売却による)切り出しは考えていない」(宮部社長)というが、他メーカーから調達したスマホをパナソニックのブランド名で発売する戦略を世界市場で加速させるなどの新たな施策で立て直しを図る。
国内市場で苦境に立たされる一方で、富士通は6月から「高齢者向け」のスマホを仏で販売した。専用コミュニティーサイトを設けるなど「端末だけでなくサービスもセットにし、価値を提案して利益を取る」(大谷信雄常務)新戦略を打ち出し、海外市場に活路を見いだす。
パナソニックや富士通などはかつて「ドコモファミリー」と呼ばれ、一部開発費をドコモに負担してもらって携帯電話を共同開発してきた。“二人三脚”で「i-mode(アイモード)」、折りたたみ式携帯などに代表される日本独自の携帯電話市場を築き、安定した国内需要を国内メーカーで分け合い、一定の販売量を確保した。
しかし、こうしたドコモの主導による商品戦略は、一部メーカーを国内市場偏重に傾斜させ、スマホの開発に大幅に出遅れたメーカー側は国際競争力を養う間もなく、爆発的に拡大するスマホ市場で地位を確立することができなかった。今回のドコモのツートップ戦略に限らず、スマホ市場で競争力のない一部メーカーは携帯電話事業の収益がすでに悪化しており、ドコモ新戦略は「携帯事業の再編を模索していた各社の決断を早めただけ」(アナリスト)と見る向きもある。
例えば、かつて国内トップシェアを誇ったNECの携帯電話事業は海外勢に押されシェアが低下、3期連続で赤字となった。この結果、単独での生き残りは難しいと判断し、中国の聯想(レノボ)グループと事業統合を交渉中だ。
今後3年程度でスマホの国内シェア首位を奪う計画を掲げていたシャープは、ツートップ戦略によって「すべてが台無し」(関係者)という。シャープは経営危機が深刻化した2012年に、富士通との事業統合が社内で浮上した経緯もある。今後、各メーカーは事業継続に向けて再考を求められる可能性もある。
危機感を募らせる国内メーカーにとって、不振の携帯電話事業をどうするかの「決断の時」は迫っている。海外勢に比べ世界的競争に打ち勝つ経営資源も乏しい国内メーカーは、国内外を含めた合従連衡の道も模索せざるをえない状況だ。“ドコモショック”に揺れる市場で、淘汰(とうた)の幕が上がった。(是永桂一)