SankeiBiz for mobile

「子連れ歓迎」ファンつなぎ止め ジャズクラブ、映画館、歌舞伎座など

ニュースカテゴリ:企業のサービス

「子連れ歓迎」ファンつなぎ止め ジャズクラブ、映画館、歌舞伎座など

更新

六本木ヒルズのTOHOシネマズでは平日昼に週1回のペースで、乳幼児連れOKの「ママズクラブシアター」が開催されている=東京都港区  ジャズクラブなど通常は「お子さまお断り」の施設で、親子が一緒に楽しめるイベントが増えている。「行きたくても子供を家に置いていけない」といった親の要望に応えることでファン離れを防ぐのが狙い。また、子供にも一流の音楽などに触れてもらい、少子高齢化による顧客層の先細りが避けられないなか、新たなファンづくりにつなげる。

 「本物」に触れる機会

 「このパーカッション(打楽器)には水牛の革を張ってあります。このへんに水牛の“魂”が飛んでいるかもしれませんね」

 それまで神妙な顔つきで演奏を聴いていた子供たちから笑みがこぼれた。ピアニストの塩谷哲さん(47)がジャズクラブのブルーノート東京(東京都港区)で開いたライブでのひとコマだ。

 塩谷さんは5月中旬の週末3日間、バンドとともに延べ6回のライブをブルーノート東京で開催した。このうち2回を「保護者同伴の小・中学生は半額」(正規料金7000円、飲食代別)とした。

 酒も出すジャズクラブの「お子さま客」は異例だ。ライブは各回ほぼ満席(定員300人)で、その2回は親子連れが約1割を占めた。ライブの内容は楽器の解説を除くと、大人向けと同じ。アンケートでは子供たちから「格好良かった」「迫力があった」などの反応が寄せられたという。

 今年がソロデビュー20周年となる塩谷さんは、自身も2人の子を持つ父親。同世代のファンから「子供を置いてライブに行けない」との声が出たことが親子連れライブを開催するきっかけとなった。「料金を安くして家族で聴きに来てもらおうと考えた。子供には本物の音楽を聴いて何か感じてほしかったし、反応は僕らの刺激になる」と話す。

 ブルーノート東京は「未来のジャズファンも増やしたい」と今後も同様のライブを行っていく方針だ。

 託児サービスつき

 映画館では、赤ちゃんと一緒に鑑賞できるTOHOシネマズの「ママズ クラブ シアター」が10年の歴史を持つ。米国での事例などを参考に各地方で開催している。出産や子育てで離れてしまった映画ファンをつなぎ止める狙いがある。

 六本木ヒルズ(東京都港区)は、平日昼に週1回のペースで新作を上映。乳幼児に配慮して館内の照明は通常より明るく、映画の音量は控えめに設定している。料金は赤ちゃんをひざにのせての鑑賞で1800円、3歳以上は1席1000円。

 5月23日の上映は大沢たかおさん主演の「藁(わら)の楯」。11カ月の長女と鑑賞に来た東京都品川区の主婦(33)は「映画が好きで、臨月になるまで映画館に行っていた。新作を見られてうれしいし、周囲が同じようなお母さんばかりで気兼ねしなくて済む。子供もおとなしく見ています」と笑う。

 館内では授乳しながら鑑賞する母親の姿もあった。最近では米アカデミー賞を受賞した「レ・ミゼラブル」が追加上映したほどの人気だったという。

 4月に改装オープンした歌舞伎座(東京都中央区)は、初めてとなる託児室を7月に隣接するビル内に開設する。歌舞伎は本来、「『子供OK』が基本の伝統芸能」(松竹)で、もともと親子一緒の鑑賞が可能だ。だが、子連れで周囲に気兼ねする親たちに配慮した。

 託児サービスは、新国立劇場やサントリーホールなどがすでに提供している。歌舞伎座は専門業者に委託して休日と一部平日の昼の部、一部週末の夜の部に対応。対象は乳幼児から12歳までで料金は1回1人3000円。保育料の実費との差額、約1万円は松竹が負担する。

 観客の高齢化が進む歌舞伎では、新しいファンの獲得が課題となっており、託児室では助六など歌舞伎のキャラクターの塗り絵も用意する。担当者は「せっかく『歌舞伎の殿堂』まで来ていただくのだから、将来のファンになってほしい」と話す。すでに予約が相次いでおり、潜在的な需要は大きい。バブル時代を経験した40代前後の「本物志向」の親たちの利用も増えそうだ。(藤沢志穂子)

ランキング