SankeiBiz for mobile

ゲームとリアル、異業種コラボ加速 ソフト開発遅れを危惧する声も

ニュースカテゴリ:企業の情報通信

ゲームとリアル、異業種コラボ加速 ソフト開発遅れを危惧する声も

更新

東京都渋谷区で人気を集める「バイオハザード」のカフェ(提供写真)  家庭用ゲーム機やソフトのメーカーが異業種と連携(コラボレーション)してビジネスを展開する取り組みが加速している。

 任天堂が新型ゲーム機で吉本興業の動画を配信する方針のほか、カプコンが人気ゲームソフト「バイオハザード」の世界を再現したカフェを展開するなど、ゲームを“リアルの世界”につなげる取り組みは多種多様だ。ソーシャルゲームに押され低迷する家庭用ゲーム業界にとって、既存とは異なる顧客層開拓という効果を生み出しているものの、業界関係者からは本業での開発が遅れる“危機”が指摘されている。 

 飲食、劇場など異色のコラボ

 「もはや、ゲームを作って販売する単純な仕事だけでは、ソーシャルゲームに打ち勝てない」。ある家庭用ゲーム機の関係者は、そう打ち明ける。

 カプコンは昨年7月、外食産業と組んで、東京都渋谷区に「バイオハザード」をモチーフにしたカフェをオープン。ゲームのキャラクターの等身大オブジェを展示したり、ゲームをイメージした映像が店内に流れ、世界観を味わえる。

 昨年1月に都内でオープンした「カプコンバー」でも、人気ソフト「モンスターハンター」に登場する食物がメニュー並ぶなどユニークな取り組みが人気を集める。カプコンバーは年間約3万5千人が訪れ、「欠かせない重要な事業の一つだ」(関係者)。

 同社の異色コラボは、カフェやバーにとどまらない。熱血弁護士が法廷バトルを繰り広げる「逆転裁判」を宝塚歌劇団が舞台化するなど、多方面に展開。3月には、土浦市立博物館(茨城県)で「戦国BASARA」に登場する武将が使用した刀剣や甲冑を集めた企画展を実施する。

 「映像の中だけじゃなく、身近な場所や空間でゲームを具象化することは、ソフトの売り上げに貢献する」(カプコン社員)と自信を見せる。

 相手側も“おいしい”が、本業は?

 ゲームの認知度アップという利点が指摘される一方で、連携する他業種の企業や自治体も、その“うま味”を共有している側面もある。

 「若い世代の観光客を呼ぶには、ゲームで有名なキャラクターを使うのが一番効果的」。ある自治体関係者はそう話す。

 相乗効果を生み出すため、自治体や企業側から積極的にゲーム業界にコラボのアイデアを出す事例も後を絶たない。あるゲーム企業には、博物館や百貨店などの異業種からのコラボのオファーが年間数十件も来たという。

 しかし一方で、業界関係者からは、ゲーム業界の異業種交流が「本業であるソフトなどの開発を遅らせる要因になるのでは」と心配する声も多い。

 任天堂は、平成25年3月期の連結営業損益予想を従来の200億円の黒字から200億円の赤字に下方修正。その最も大きな要因は、ソフト不足などで、携帯型ゲーム機「ニンテンドー3DS」や、昨年発売した次世代型家庭用ゲーム機「Wii U(ウィー・ユー)」の販売が低迷していることにある。

 異色さの効果は未知数

 収益を確実に上げるソフト開発こそが、家庭用ゲームの業績を確実に救う状況下で、任天堂の岩田聡社長は「コミットメント(公約)」として26年3月期に、1千億円以上の営業利益を出すことを強調した。

 起死回生には「他業種とのコラボに心血を注いでいる時間はない」(証券アナリスト)という指摘も少なくない。

 にもかかわらず、任天堂は今後、吉本興業と連携して、Wii U向けに動画配信サービスを楽しめるソフトを提供するなど、異業種コラボを積極的に推進する。

 同社が年内に実現を目指す、Wii U用の交流サイト(SNS)機能「Miiverse(ミーバース)」を、スマートフォン(高機能携帯電話)で利用可能にする方針は、「スマホを情報媒体として活用する方法として画期的」(業界関係者)と評価されているが、吉本興業など全く別ジャンルとの協業が業績に貢献するかは「全く未知数」(同)だ。

 ゲームを“リアル”にする取り組みは新事業として期待されるものの、本業と離れた異色ぶりは、どこまでファンを取り込めるのだろう。業績復活の救世主に本当になれるのかが、議論を巻き起こしそうだ。(板東和正)

ランキング