2013.6.19 11:00
中国商務省は6月、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)交渉参加を検討する方針を明らかにした。関西は他地域と比べ、中国貿易の依存度が高く、日中のTPP参加で関税引き下げなどの恩恵を受けられるメリットがある。
半面、模倣品があふれる“パクリ天国”とあって、企業の知的財産権の流出も懸念される。日中緊迫化の影響で関西の対中投資もしぼむ中、中国のTPP参加は、関西企業にとって“もろ刃の剣”かもしれない。
中国は、関西の救世主?!
「はっきり言って、救いだ」
関西の大手製造業幹部は、中国のTPP交渉参加の検討を手放しで喜んだ。
背景には、中国経済に“依存”する関西経済の実態がある。大阪税関によると、昭和63年の関西の対中貿易額(輸出)は4166億円に過ぎなかったが、平成24年には3兆1868億円に成長。輸出全体の23・5%を占めた。パナソニックは売上高の約13%を中国で稼ぐほどだ。
関西経済連合会は、日本がTPPに参加した場合、関西の製造業の域内生産額は0・4%(1823億円)、輸出は2・9%(2484億円)増えると試算する。
さらに、中国が加われば「まさに鬼に金棒」(関西企業幹部)で、関西の生産や輸出の増加が期待でき、さらなる活発化が見込まれる。
日本の知財が危ない?
しかし、冷静に見れば、喜んでばかりもいられない実情も見え隠れする。
中国での日本ブランドの信頼度は極めて高く、模倣の標的にされる中、関西を中心に日本企業の技術流出が急増する可能性もある。
関西企業関係者は中国との貿易加速で模倣件数が増えることを恐れている。
しかし、最も危惧しているのは、「中国が日本の知財をさらに学び、模倣レベルを上げて法の抜け穴をかいくぐる」(関係者)ことだ。日中貿易が発展し、中国内で流通する日本製品の量が増えれば、模倣業者にとっては“研究材料”が豊富になり、「模倣技術が確実に上がる」(知財研究者)。
中国の日本に対する模倣技術の巧妙さは、すでに近年、“急成長”を遂げている。
中国・上海市。毎年80万人以上が来場する「上海モーターショー」の会場で、元ホンダ知的財産部長で日本知的財産協会の久慈直登専務理事は信じられない現実を知った。数年前のことだ。中国の自動車メーカーが、前部はトヨタ自動車、後部はホンダのデザインを盗用した乗用車を展示していたのだ。
中国は日本と異なり、製品の一部の形状やデザインなどを登録する「部分意匠制度」が存在しない。つまり、複数の自動車メーカーのデザインを模倣する「切り張り」は、現行の知財関連法に抵触せず「特許情報を吸収した模倣業者の手口が年々進化し、取締当局とのいたちごっこに陥っている」(久慈氏)。
中国といかに、つきあうか
日中貿易が強まることで、模倣ビジネスで日本企業を悪用する中国人が増加するのは当然の流れだ。
中国の平成24年の特許の出願件数は65万3千件と「世界一の特許大国」に成長する半面、知財関連の訴訟件数も23年に7819件と世界一を記録した。中国が、知財情報を武器に、今より日本企業の知財を奪う危険性は高い。
「全くもって未知数」。ある関西企業の知財担当者は、知財に関するチャイナリスクをこう分析する。
仮に日中両国がTPPに参加した場合、貿易が加速する勢いや規模が大きすぎて、模倣ビジネスに対するインパクトが計り知れないというのだ。中国のTPP参加は関西企業にとって、生産活発化と知財流出の“もろ刃の剣”といえる。
歓迎ばかりではなく、気を引き締めて中国と向かい合う必要がありそうだ。
(板東和正)