新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」が南アフリカなどで確認されたことを受け、岸田文雄首相が先手を打つ構えで水際対策を強化している。オミクロン株確認後、段階的に強めてきた入国規制も29日には全世界からの外国人の入国を当面の間、停止すると表明した。矢継ぎ早の打ち出しは菅義偉政権が水際対策で後手に回ったと批判を浴びたことを踏まえた対応とみられるが、「最悪の事態を想定した危機管理」を信条とする首相の真価が問われている。
「未知のリスクには慎重の上にも慎重に対応すべきだと考え、政権運営を行っている。私がすべてを負う覚悟でやる」
首相は29日、官邸で記者団にこう語り、オミクロン株による感染拡大を防ぐため、水際対策を徹底する考えを強調した。首相はオミクロン株が確認されて以降、次々と対策を取ってきた。
「一番厳しい対応にしてくれ」。南アの国立伝染病研究所で新たな変異株の確認が発表された直後の26日、首相は南アなど6カ国からの入国者について、3日間の指定宿泊施設での待機を提案した事務方の意見を退け、より厳しい10日間の待機とするよう指示した。
翌27日には水際対策の対象国にモザンビークなど周辺3カ国も追加すると表明した。首相周辺は「首相には『慎重すぎる』との評価があるが、そんなことはない。トップダウンの危機管理だ」と明かす。
首相の念頭にあるのは、過去の政権の水際対策をめぐる「後手」批判だ。
昨年1月、中国・武漢の新型コロナの感染拡大に直面した安倍晋三政権は3月に入って中国全土からの入国拒否に乗り出したが、対応の遅れを指摘された。菅政権でも、当初は中国や韓国など11カ国・地域とのビジネス往来を継続する意向だったが、自民党内や世論の反発を受け、今年1月に一時停止を決めた。
経済界や留学生を受け入れる教育機関などには入国制限の緩和を求める意見があるのも事実だ。
ただ、首相は先の党総裁選以降、「危機対応の要諦は常に最悪の事態を想定することだ」と繰り返してきた。オミクロン株は首相にとって、政権発足後初の本格的な危機対応といえる。国内の感染状況は落ち着きを見せているが、冬場にかけては「第6波」の到来も予想され、首相の危機管理が問われる場面が続く。(永原慎吾)