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東京・武蔵野市の「住民投票権問題」 市民不在で条例案に批判

 日本人と外国人を区別せずに投票権を認める東京都武蔵野市の住民投票条例案をめぐり、外国人参政権にあたるとの憲法上の懸念に加え、作成過程にも疑問の声が上がっている。松下玲子市長は条例制定で「市民参加がより進む」と訴えるが、条例の骨子案や素案は市民不在の中で作られ、その後も反対意見が反映されずに市議会に提出された。松下市長は議会答弁で「市民の理解を得られた」との主張を重ねており、市議会の判断が注目される。

 技能実習生にも

 《18歳以上で市内に3カ月以上在住》《留学生や技能実習生ら外国人まで幅広く含む》-。これらが条例案の定める投票権者だ。

 武蔵野市の調査では、昨年12月時点で常設型の住民投票条例は全国78自治体にある。このうち、43自治体が外国人にも投票権を認めているが、多くが要件を設けており、今回の武蔵野市の水準まで門戸を広げるのは、大阪府豊中市、神奈川県逗子市に次いで全国3例目だという。

 住民投票の権利を外国人に付与することで懸念されるのが、参政権の代替制度として機能する恐れだ。憲法では、選挙権は「(日本)国民固有の権利」(15条)と定められ、外国人参政権を認めていない。

 住民投票は地方行政であっても、国政に関わることが問われるケースが想定される。実際、米軍普天間飛行場の辺野古移設や日米地位協定の見直しなどが過去に対象となった。

 行政には投票結果への「尊重義務」という実質的な拘束力が働くため、国士舘大の百地章特任教授(憲法学)は「武蔵野市の条例案は名を変えた外国人参政権と考えられ、憲法違反の疑いがある」と指摘する。

 一方、条例案の作成過程の不透明さを問題視する声もある。市は昨年4月施行の自治基本条例に住民投票条例の制定を盛り込んだ。同12月に検討委員会を設置したが、委員は副市長をトップに市職員のみで構成された。有識者や市民代表などの第三者が加わらなかったため、条例案に反対する住民は「ブラックボックスで作られた」と批判する。

 議論の詳細明かさず

 検討委での投票権をめぐる議論について、松下市長は詳細を明かさぬまま、「外国籍住民の排除に合理性はないと判断した」との説明を繰り返している。市は検討委設置に先立ち、「他の自治体の先例を詳細に調査した」としており、市長の発言は、外国人に住民投票権を認めない大半の自治体は「不合理」といっているともとれる。

 また、市は条例の骨子案や素案の作成後、市民の意見募集やアンケートなどを実施することで「第三者の目」は担保されたと説明する。ただ、ホームページ上で公開されている素案に対する意見一覧では、外国人の投票権に反対や疑問、懸念の声が賛成の声を上回っているのに、条例案に反映されることはなかった。

 市民向けの意見交換会は8月に開かれたものの、新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言期間中で、出席者は10人だった。

 松下市長は今月19日開会の市議会に条例案を提出後、産経新聞の取材に対し「市民に分かりやすく伝える必要があることは理解している。他の条例よりも、かなり丁寧に時間をかけて行ってきた」と述べた。24日の市議会本会議でも、市民への周知に関する質問が相次いだが、松下市長は、理解は得られているとの立場を崩さなかった。

 12月13日の市議会総務委員会では条例案と、市民団体「市の住民投票条例を考える会」が提出した廃案を求める陳情を一括審査。最終日の同21日に本会議で採決される予定。同会代表で亜細亜大の金子宗徳非常勤講師(政治思想)は「条例案には住民の意見が十分に反映されたといえず、市議会は拙速な審議を避けてほしい」と話している。

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