26日閣議決定した令和3年度補正予算案には、格差是正にこだわる岸田文雄首相の意向を反映し、新型コロナウイルス禍に苦しむ困窮者の支援や、子育て世帯への給付など多くの分配政策が盛り込まれた。ただ、今夏に感染「第5波」が広がった際は支援策の支給遅れと前年度予算の巨額の繰り越しが判明し、菅義偉(すが・よしひで)前政権の支持率下落にもつながった。当時の反省を踏まえた対応が問われる。
「これからスピード感をもって政策の実行に取り組む」。首相は19日、産経新聞などのインタビューでこう述べ、政策の実現速度を重視する考えを強調した。政権初の予算案である3年度補正を年内に成立させ、早期執行に全力を挙げる。
例年、経済対策の裏付けとして年末に編成される補正予算案は、年明けの国会で成立することが多く、成立を年内に前倒しするのは異例だ。菅前政権で編成された2年度3次補正は昨年12月15日に閣議決定、成立は今年の1月28日だった。
巨額の補正予算を組んでも成立までは執行ができない。さらにコロナ禍では行政の動きが滞り、感染拡大防止で休業や営業時間短縮に応じた飲食店への協力金の支払い遅れが相次いだ。原資となる地方創生臨時交付金は使い切れなかった分が2年度から3年度へ3兆円以上も繰り越され、政府の対応に批判が強まった。
首相が3年度補正の年内成立と早期の執行にこだわるのは、こうした前政権の教訓を踏まえたためとみられるが、追加経済対策の中身をみると課題が浮かぶ。
例えば困窮学生に対する10万円の給付金だ。住民税非課税世帯やそれに収入が準じる低所得世帯の学生が対象だが、コロナ禍でアルバイト収入が大幅に減り学費の支払いが困難な学生や留学生にも支給される。政府は個々の学生の経済状況を把握しておらず、大学や専門学校が相談を受け対象者を集約する必要があるため、支給に時間がかかる。
18歳以下への10万円給付も児童手当の仕組みを活用して早期支給を目指すが、同手当の対象外となる高校生世代への支給が課題だ。
首相は「最悪を想定して備えなければならない」と指摘する。だが、欧州などの状況をみれば年末には感染「第6波」で感染者数が急増する恐れがある。社会経済に再び危機感が強まったとき、給付金は迅速に必要とする人の手元に届くのか。制度の建て付けを再確認する必要がありそうだ。
(永田岳彦)