【ワシントン=塩原永久】バイデン米大統領が米連邦準備制度理事会(FRB)次期議長人事で現職のパウエル氏の再任を決めた背景には、大規模な金融緩和で新型コロナウイルス危機からの景気回復を主導した手腕への期待感がある。インフレ急伸で来年にも事実上のゼロ金利政策の解除が見込まれる。バイデン氏は、危機対応からの金融政策の「正常化」を、安定した手腕のパウエル氏に託した。
パウエル氏再任は既定路線とみられていた。議会の今夏の公聴会では、与野党から仕事ぶりを評価する声が多数出た。大統領に助言する立場のイエレン財務長官も続投に前向きだった。
パウエル氏が評価を得た最大の理由は、コロナ禍が深刻化した昨年3月、ゼロ金利と大規模な量的金融緩和策を決めた判断力だ。社債購入など資金の目詰まりを防ぐ対応にも果断に踏み込み、政府による巨額財政出動とともに、経済を急回復させる立役者となった。
ただ、与党・民主党の左派系では、規制緩和に積極的だったトランプ前大統領(共和党)に登用されたパウエル氏が「金融規制に消極的」との批判が高まり、規制強化に前向きなブレイナード氏を推す声が急浮上していた。バイデン氏は今月、パウエル氏とブレイナード氏に面会。ブレイナード氏を推す左派の意向に目配りしながら、人事を熟考してきた。
だが、最終的にパウエル氏が選ばれたのは、物価高を受けて来年中にFRBが複数回、利上げするとの観測が強まる中、「市場とのコミュニケーション」を手堅く進めてきた同氏の続投が、混乱回避に最適だとの判断があったとみられる。
FRB理事や財務省高官など経験豊富なブレイナード氏といえど、議長に交代すれば市場の攪乱(かくらん)要因になる。今月決めた量的緩和の縮小に続く危機対応からの「出口」に向かう過程で、FRBトップを交代させるリスクを避けたいとの考慮が政権内で働いたようだ。
物価動向は一段と見通しにくくなっており、最近は雇用回復の遅れといった変調もみられる。見通しの利かない経済環境でパウエル氏は引き続き重責を担う。