海外情勢

「経済成長を犠牲にしてでも…」不動産バブル崩壊で明らかになった習近平氏の本性 (1/2ページ)

 ■不動産市況の悪化、政権の経済圧迫、感染再拡大…

 2021年7~9月期、わが国の実質GDP成長率は前期比年率で3.0%のマイナスだった(速報値)。同じ期の米国とユーロ圏のGDP成長率はプラスだ。主要先進国の中でわが国経済の弱さは際立つ。わが国経済の大黒柱である自動車の生産が大きく減少したことに加えて、中国の景気減速で同国向け輸出が伸び悩んだことが大きな要因である。

 世界経済を見回しても、中国の経済成長の減速は顕著だ。中国経済の減速の主たる要因は、不動産市況の悪化、習近平政権による経済圧迫、およびデルタ型による感染再拡大だ。それ以外にも、米中対立の先鋭化懸念など中国経済の下振れ懸念を高める要素は多い。中国経済の先行き不安定感は高まっている。

 ここへきて、2022年の中国のGDP成長率予想を下方修正する専門家が増えている。不動産市況の悪化などに加えて、中国では経済全体で資本の効率性が低下し生産年齢人口も減少している。それは、中国の自動車需要などの取り込みなどによって、景気の持ち直しにつなげてきたわが国経済にマイナスだ。当面、中国経済は厳しい状況が続き、世界経済の足を引っ張るだろう。

 ■建設されたマンションは「全人口の2倍分」

 中国の不動産市況が悪化している。中国の中央と地方政府にとって、経済と財政運営のために土地売却の重要性が高まってきた。中国では政府が土地の使用権を不動産業者に売却する。それを一般に土地売却と呼ぶ。地方政府の収入に占める土地売却収入は20%を超えている。

 これまで、地方政府はインフラ投資などを進めて、経済成長目標の達成に取り組んできた。経済成長目標の達成は地方の共産党幹部の出世に影響する。土地使用を認められた企業は借り入れを増やしてマンション建設を進め、2000年代前半から不動産投資は増加した。中国経済の高成長を背景に「未来永劫、不動産価格は上昇し続ける」という成長期待が大きく高まり、“不動産バブル”が発生した。

 リーマンショック後、中国は4兆元(当時の邦貨換算額で56兆円程度)の経済対策を打ち、基本的には金融政策も緩和的に運営した。それがカネ余りを生み、強い成長期待を背景に不動産投資・投機が勢いづきバブルは膨張した。その結果、“鬼城”と呼ばれるゴーストタウンが増えた。2016年時点で中国の人口約14億人に対して34億人分の住宅が供給されたと報道されたほど、住宅供給は過剰だ。その状況下、共産党政権は融資規制の調整などによって不動産市況の過度な加熱と悪化を防いだ。中国経済全体が不動産バブルの熱気に下支えされた。

 ■不動産上位100社の販売額は前年同月比30%減

 しかし、その状況は持続可能ではない。コロナショックの発生によって中国の雇用・所得環境は不安定化し、消費者の節約志向が強まった。それに上乗せするように、恒大集団など不動産企業のデフォルトリスクが急上昇している。購入した物件の建設が完了しないのではないかと買い控える人が増えている。

 その結果、大型連休中の客足増加によって例年であれば書き入れ時といわれる9月と10月、不動産上位100社の販売額は両月とも前年同月比で30%超減少した。一部の地方政府は財政への打撃を恐れて住宅の値下げを制限し始めたが、主要70都市のうち7割超の都市で新築住宅価格は下落している。不動産セクターは中国GDPの4分の1を占めるといわれ、景気減速への影響は大きい。

 ■3期続投が危ぶまれる習近平氏の焦り

 不動産市況悪化には、習近平政権の政治が大きく影響している。習政権は長期の支配基盤の確立と一党独裁体制の維持のために、ある程度の経済成長を犠牲にし始めたようだ。

 その顕著な例が、2020年夏に共産党政権が導入した不動産融資規制の“3つのレッドライン”だ。規制の強化によって中国の不動産セクターでは恒大集団などの資金繰りが逼迫して不動産市況が悪化した。唐突な不動産規制の背景には、2022年後半の共産党党大会前に不動産のバブルを鎮静化しなければならないという習氏の危機感があっただろう。党大会が近づく中で不動産価格の下落が鮮明化すれば習氏の経済運営への批判は高まり、3期続投が難しくなる恐れがある。終身支配を目指しているといわれる習氏はその展開を避けなければならない。

 不動産以外の分野でも、中国の政治が経済のダイナミズムを減殺している。第19期中央委員会第6回全体会議(6中全会)で採択された“歴史決議”では個人崇拝の禁止が削除された。習氏は、自らの力によって漢民族の繁栄を目指す考えを強めている。

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