経済産業省は22日、国内の繊維産業の在り方を検討するために設置した「産業構造審議会繊維産業小委員会」の初会合を開いた。新型コロナウイルス禍で多くの繊維関連企業で売り上げが落ち込む一方、巣ごもり需要でインターネットによる販売が伸びるなどの構造変化が進む。同小委では2030(令和12)年に向けた繊維産業の立て直し策を議論し、来春にも報告書をまとめる。
経産省は今回、繊維産業の領域を、糸や布織物などの素材▽染色、縫製などの加工▽産業用繊維▽衣料品メーカー(アパレル企業)-などで構成されると定義。同省は平成19年に5年後の繊維産業の将来像と施策について「繊維ビジョン」を取りまとめたが、それ以降は産業政策にかかる議論は行ってこなかった。
繊維業界は工程ごとの分業化が浸透しており、中小零細が多数を占める。業界団体のまとめでは、繊維製造品出荷額は3年をピークに右肩下がりで、リーマン・ショック後の20年以降は横ばいで推移する。
伝統的な分業制が貫かれ、衣料品の発注は川下に当たるアパレル企業が小売店頭価格を基に原価を決める構造が定着。小売りやアパレルが利益の多くを享受し、高度な技術があっても染色や縫製などでの工賃が低く抑えられる傾向にある。結果、低賃金が常態化して若い人材が不足し、高齢化が進んでいる。
コロナ禍では、商業施設に対する営業自粛要請の影響などで令和2年の春夏衣料が実店舗での定価販売機会を失った。これを受け、アパレル企業が同年秋冬衣料の商品発注数を絞り込んだことで、織物メーカーや縫製メーカーなどの製造側でも売り上げが落ち込んだ。
一方で、デジタル化の進展でインターネットによる販売方式が定着し、消費者への販売場面は多様化した。ネットを通じて洋服を毎月定額で貸し出すサブスクリプション(定額課金)サービスへの参入や、大量生産を排した環境配慮や国内製造を前面に押し出すアパレルブランドの登場など、新たな価値提供がアパレル企業の生き残り策として注目を集めている。
初回の会合では委員から「低賃金ゆえに人材流入が妨げられている」と、国内の労働構造を問題視する意見が出された。世界のトップブランドと取引がある生地メーカーや縫製工場も守秘義務があって取引を公開できず、知名度を上げて下請けから脱却することができないとの指摘もあった。
経産省は今後、国内繊維産業の課題を洗い出しながら、生産体制の環境整備や新たな市場ニーズへの対応、新市場獲得への体制整備について検討する考えだ。(日野稚子)