■「経済対策」は支出以上の効果を生む必要がある
「新型コロナ対策」「経済対策」と言えば、どんな大盤振る舞いも許されると、政治家も官僚も思っているのだろうか。政府が11月19日にまとめる「経済対策」は、財政支出ベースで40兆円超になる見通しだと報じられている。新型コロナ前の年間の予算、一般会計予算が100兆円強だったので、追加の対策で使う金額としては、まさに大盤振る舞いだ。衆議院総選挙の際に与党が声高に叫んできた「手厚い給付」などを実行すれば、国民は皆喜ぶと思っているのだろう。だが、その大盤振る舞いのツケは、いずれ国民に回ってくる。
「経済対策」というのは言うまでもなく、政府が支出したものが、それ以上の経済的な効果を生むものを言う。つまり、政府が財政支出する以上、その経済的効果が明らかに期待できるものだけを本来、「経済対策」と言う。さらに「乗数効果」といって、政府が使うカネはいわば種銭で、これが刺激を与えて数倍も国民の懐を潤わせることが本来の経済対策には期待されている。所得が減った分を補填するだけでは厳密に言えば経済対策ではなく、福祉政策だろう。
「新型コロナ対策」も新型コロナ感染症の拡大防止や、それに伴う医療崩壊の阻止などに直結する政策を言う。かつて東日本大震災からの「復興予算」が、関係のない沖縄県の道路建設などに使われていたことが発覚、大きな問題になったが、新型コロナ対策という以上、新型コロナの封じ込めなどに役立つ政策でなければならない。
■マイナポイントが「新型コロナ対策」になるはずがない
今回の「経済対策」の中で、またしても噴飯物の政策が紛れ込んでいる。マイナンバーカードを取得した人に現金同様に使えるポイント「マイナポイント」を配るというものだ。新聞などによると「新型コロナウイルス感染拡大に対応するための経済対策」の一環というのだが、マイナポイントを配ることが「新型コロナ対策」になるはずもないし、経済対策としてもどれだけ乗数効果があるか不明だ。
当初、公明党からは、カード保有者に一律3万円分を支給するよう求める声が出ていたが、最終的には最大で2万円分の支給になるという。総額2兆円の事業である。
カード取得者に恩典を与えるのは、「カードの普及促進」が政策目的であって、経済対策は後付けの理屈だろう。新たにカードを取得した人に5000円分、カードを健康保険証として使うための手続きをした人に7500円分、預貯金口座とのひも付けをした人に7500円分をそれぞれ支給するという話になっている。
■利便性を感じられないから、普及しないのも当然
マイナンバーを普及させたいという政府の意図は分かる。だが間違ってはいけないのは、マイナンバー自体はすでに全国民に発行され、番号は割り振られている。番号自体は普及しているのだ。ところがマイナンバーカードが政府の思惑どおりに普及しない。これまでもマイナポイントの付与などカネをばらまいてきた結果、普及率は上昇しているとはいえ、総務省の集計によると2021年11月1日現在のマイナンバーカードの普及率は全人口の39.1%にすぎない。
カードが普及しないのは当然だ。マイナンバーカードを持っていることによる利便性を感じない人が多いからだ。コンビニで住民票が取れますと言われても、住民票が必要になること自体、年に数回あるかないかだ。ようやく、健康保険証としても使えることになったが、健康保険証すべてがマイナンバーカードに置き換わるわけではなく、どちらも使えるから、わざわざ不便なマイナンバーカードを持ち歩くのは煩わしい。運転免許証としても使えるという話もあるが、まだ先の話だし、従来の免許証が無くなるのかどうかも分からない。
そもそも、マイナンバーを他人に知られてはいけない、という話から始まったため、マイナンバーカードを持ち歩くことにも多くの人はリスクを感じている。家の金庫にしまっているという高齢者もいる。米国の社会保障番号や北欧の個人認証番号などは、多くの人が暗記していて、聞かれればその場で答えている。マイナンバーが使えない仕組みになっているのは、最初の設計から間違っているのだ。