■日本が「市場の出口」整備に10年を費やしたワケ
その後さらに、98年に日本国土開発、2001にマイカルの社債がデフォルトを起こした。日本国土開発のケースでは当初、借入金に占める社債の割合が大き過ぎて、「金融機関が債権放棄するだけでは経営再建には不十分で、社債の投資家にも応分の負担を求めなければならない」という議論も巻き起こった。これも高度に資本市場が発達した国ならではの問題だろう。
こうしてデフォルトのたびにそれに付随する新たな問題が浮き彫りになり、日本はこれを一つずつ洗い出して資本市場の出口を整備していった。デフォルトを糧として古びた法律を見直したり、制度を実情に適ったものに改めるのに、10年をかけ、今もそのブラッシュアップを続けている。
一方の中国の市場は若すぎて、倒産関連法がデフォルトの試練に磨かれておらず、実務の上で十分に使い物になっているのかという疑念がつきまとう。
■すでに中国企業の経営危機は広がっている
「中国は人治の国だから、共産党が力業でどうにでもするだろう」という声が出てきそうだが、マーケットが最も嫌うのは不確実性や不透明性である。A社は政治的判断で救われたが、B社はどうなるかわからないというのでは、秩序だった退出はおぼつかないため、混乱は容易に収束しまい。
すでに中国では国有企業か民営企業かにかかわらず、大手企業の経営破綻が増えており、業種も横に広がりつつある。不良債権問題の本丸だった建設・不動産業から、小売や商社、ついには健全と言われた製造業にまで経営危機が広がったかつての日本にそっくりだ。
さらに言えば、ヤオハンのデフォルト後、日本では比較的格付けの高い企業であっても、資本市場で社債を発行できないケースが相次いだ。市場を循環する投資資金が凍り付いたためであり、現在の中国は当時の日本を上からなぞるように、資本市場が機能不全を起こしている。
中国政府と地方政府がこうした危機的状況をどこまで支え続けられるのか。市場主義経済を導入して日が浅い中国で、制御不能な自然災害にも似たマーケットの怖さを中国政府や地方政府がどこまで理解しているのか。
ややテクニカルで地味な話ではあるが、それだけに「市場の出口」の問題は法制度の整合性をとりつつ、国ごとの金融慣行に合った方策を一つひとつ積み上げていくには時間がかかる。おろそかにすればデフォルト後の混乱は深まり、解決に時間がかかるばかりだろう。
山口 義正(やまぐち・よしまさ)
ジャーナリスト
1967年生まれ。 愛知県出身。法政大学法学部卒。日本公社債研究所(現格付投資情報センター)アナリスト、日本経済新聞社証券部記者などを経て、現在は経済ジャーナリスト。月刊誌『FACTA』でオリンパスの不透明な買収案件を暴き、第18回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の大賞を受賞。 著書に『サムライと愚か者 暗闘オリンパス事件』(講談社)などがある。
(ジャーナリスト 山口 義正)(PRESIDENT Online)