■労働市場は改善しても若者の失業率が目立つ
足許、韓国の経済指標を見ると、とりあえず労働市場は改善基調だ。2020年9月に4.0%だった完全失業率(季節調整値)は、2021年9月には3.0%にまで低下した。業種別に見ると、コロナウイルスの感染再拡大で飲食などのサービス業の雇用環境は依然厳しいものの、建設、公共サービス関連の分野で雇用は増えている。
しかし、雇用の中身を見ると、必ずしも楽観はできない。というのは、世代別の失業率に見逃せない跛行(はこう)性があるからだ。特に、季節調整前の世代別の雇用関連データを見ると、15~29歳の若年層の失業率は5.4%と、他の世代に比べてかなり高い。つまり、若年層の雇用状況が悪いのである。
■韓国の状況は日本も他人事ではない
その一因として、すでに労働市場に参入した世代へのベネフィットを重視した文在寅(ムンジェイン)大統領の経済政策による負の影響は大きいとみられる。既存の労働者は手厚く保護する一方、これから労働市場に入ってくる若年層は厳しい状況にあっている。懸念されるのは、韓国の労働市場において、持続的に雇用が生み出されづらくなる展開だ。若年層の雇用機会が増加しなければ、企業が技術や組織運営のノウハウを次の世代に継承し、長期の存続を目指すことは難しくなるだろう。
少子化、高齢化、人口の減少によって国内経済が縮小均衡に向かうわが国にとって、韓国の若年層を取り巻く雇用・所得環境の厳しさは他人事ではない。人々が将来に希望と夢をもって生活できる環境を整えるために、政府は労働市場の流動性向上やリカレント教育などを強化すべきだ。それが、経済全体でのアニマルスピリットの発揮と成長を支える。
■労働力人口が増えているのは60歳以上だけ
2021年初来、韓国の失業率は低下している。ただし、15~29歳の若年層を取り巻く雇用・所得環境は楽観できない状況にあると考えられる。その背景には大きく2つの要因がある。
まず、長期の傾向として若年層の失業率が他の世代よりも高い。2003年以降の韓国の失業率(季節調整前)の平均値は3.6%だが、15~29歳の世代では8.4%に達する。年齢の区切り方は異なるがわが国の15~24歳の失業率も全体よりは高い傾向にあるが、韓国ほどに世代間の雇用格差は深刻化していない。
次に、韓国では若年層の労働力人口が減少している。労働力人口とは、仕事をしている人と完全失業者(働いてはいないが就職活動をしている人)を合計したものだ。コロナ禍以前の2019年9月に比べて、2021年9月の韓国の労働力人口は全体としては増加している。世代別に見ると、60歳以上の労働力人口が増加し、それ以外の世代で減少している。
■出生率の低下、社会心理の悪化…
これは、かなりいびつだ。若年層に加え、30歳代、40歳代の現役世代の労働力人口の減少も顕著だ。その一因として、出生率低下がある。それに加えて、社会心理の悪化の影響も軽視できない。若年層の労働力人口の減少は、働く意思を失って労働市場から退出する、あるいは新規参入をためらう若者の増加を示唆する。
一つの見方として、韓国において労働市場への新規参入者に位置付けられる若い人にとって、希望する就業機会を見つけることの難しさは増しているようだ。その要因として文大統領の経済政策は大きな影響を与えた。政権が発足して以降、文政権は新しい需要を創出するために産業育成を強化するのではなく、最低賃金の引き上げや労働組合法の改正などによって企業から就業者への分配を強化した。
また、文政権は公共部門での短期雇用を増やすなどして高齢者の雇用も増やした。失業率と労働力人口の推移から、文政権下の労働市場では、若年層と、それ以外の世代での雇用機会と所得の格差が一段と拡大したように見える。
■若者が成長しなければ経済全体も成長しない
若年層における失業率の高さと労働力人口の減少は、韓国経済が持続的に雇用を生み出すことができるか、先行きへの不安を高める要因だ。
当たり前のことだが、若いうちに実務経験を積まなければ、仕事を覚えることはできない。若い人が仕事を覚えられないと、企業が培ってきた技術やノウハウを次の世代に継承することは難しくなり、企業の長期存続力は低下する可能性が高まる。組織全体での活気や新陳代謝も低下するだろう。
若者が希望する就業機会を見いだす環境整備は持続的な経済成長に欠かせない。実務経験を積むと、多くの人が自らのやりたいことに気づく。その気づきが、より専門的な知識を身につけたり、最先端の理論を習熟したりしようとする動機につながる。新しい知識に習熟した人は、その発揮によってさらなる成長を目指す。このようにして経済全体でアニマルスピリットが発揮されて新しい発想が実現し、新しい需要が生み出される。