海外情勢

「感染者4万人でもマスクなし」 自己責任でコロナ前に戻るイギリス (1/3ページ)

 日本国内の新型コロナの感染者数は10月中旬以降、1000人以下に減った。一方、連日4万人が感染しているイギリスでは、多くの人がマスクを着けず、コロナ前の生活に戻りつつあるという。イギリス在住ライターの江國まゆさんは「マスク着用は義務化されているが、それに従わない人が多い。義務ではなくても進んでマスクをする日本とは国民性がまったく違う」という--。

 通常の生活に戻りつつあるイギリス社会

 イギリスでは2021年7月半ば以降、まるで何事もなかったかのように、ほぼ通常通りの生活を送ることができるようになっている。パブには人があふれ、買い物客も戻ってきた。ロンドンの繁華街では人混みをかき分けるような経験もするし、公共交通機関も時間帯によっては混み始めている。

 現時点でのイギリス政府の方針は、ロックダウンで社会生活や経済を犠牲にすることではなく、ワクチンを国民に受けてもらうことで経済を前進させることである。いわゆる封じ込めではなく、共生していくやり方だ。

 この結果、経済活動は順調に回復しており、21年の第2四半期には国内総生産(GDP)が5.5パーセント増加している。

 義務でもマスクを着けない人々

 パンデミック初期の対策として、イギリスでは都市封鎖(ロックダウン)を採用し、むやみに人に接触しないように政府主導で義務的な隔離政策が取られた。一般の住人に対して義務化されたのは、家族や同じ家に住む人以外と基本的に外で会わないこと、また公共交通機関やスーパーなど公共屋内におけるマスクを義務化することなど。これは政府によって法制化され、違反した場合は、100ポンド(約1万5000円)の罰金対象になった。

 しかしここがイギリスらしいと思うのは、最も厳しい強制措置が取られていた昨年の秋から今年の春にかけても、決められた枠外で友達に会うことを躊躇しなかった人もいたし、マスク義務のある現場でマスクを着用しない人も1割程度はいたことだ。

 義務化されているとはいえ、イギリスでは健康上の理由で「exemption」(適用外)である場合は、着用する必要はない。ではどのように適用外であることを証明するのか。これは驚いたことにほぼ自己申告なのだ。実質的に医師による診断書などは一切必要ない。ただ適用外であることを示す「exemption badge(適用外バッジ)」や「exemption card(適用外カード)」を入手すればいい。

 このバッジやカードは例えばロンドン交通局の公式ウェブサイトで簡単に申請できるほか、適当にウェブ検索すると既存のデザイン・フォーマットなどをプリントできるページがあるので、それを自宅プリンターで印刷してカードやバッジの形にして身に着けるだけ。

 着用派と未着用派がバランスを取りながら共存

 もっと言うと、公共交通機関でマスクを着用していない人の中で、このカードを首からつり下げたり洋服に着けたりしている人はほとんどいない。「見えるところに着用しなければならない」という法律はないので、大抵は持ち歩いているだけで必要があれば提示するという感じだろうか。やはりこれも自己申告の範囲内なのだ。

 イングランドで全ての規制がとれた7月19日以降は、筆者の住むロンドンではますますマスクを着用する人が少なくなった。現在のところロンドン交通局は公共交通機関内でマスクは「mandatory(規則による義務)」であるとうたっており、構内放送を通して強制力を発揮しようとしているのだが、筆者の観察では現在のところほぼ3割がマスクを着用していない。

 以前は着用していない人に対して鋭い視線を向ける人もいたのだが、それもなくなり、着用派と未着用派がバランスを取りながら共存している印象だ。

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