新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の解除から21日で3週間。観光需要は首都圏近郊など近距離の旅行で徐々に上向いているが、現時点で回復のペースは鈍く、なおも国民が旅行に慎重な姿勢を見せているとみられる。政府は起爆剤とすべく観光支援策「Go To トラベル」の再開に向け、業界全体に恩恵が行き渡るよう制度内容の変更を検討中だ。現場では多くが早期再開を求める一方、効果を疑問視する声も上がる。
「決して『良い』状況ではない。『堅調に』推移しているという感じ」
全国で宿泊施設を展開する星野リゾートの広報担当者は、感染状況が落ち着き出した9月から現在までの予約状況をそう説明した。
北海道や沖縄など長距離移動を伴う旅行よりも近距離の需要が伸び始めたが動きは鈍い。要因として旅費を補助する「Go To」の再開を見据えた“買い控え”も多いとみている。
同社は再開前に予約した人であっても、再開後の制度内容に沿った料金に切り替える仕組みなどを独自に準備しており、広報担当者は「再開時期の早期決定が必要だ」と強く訴えた。
旅行大手の日本旅行も、今月18日現在の予約件数は緊急事態宣言解除直前の9月27日時点と比べ、約2・5倍にとどまった。
同社が9月2~7日に実施した利用者アンケート(有効回答数2809件)で「次の旅行での懸念点」を尋ねたところ、移動で使う交通機関や観光地で「3密」にならないか、宿泊先での感染対策が万全かなど、感染リスクを懸念する回答が上位を占めた。
広報担当者は「必ずしもコロナが収束したわけでなく、まだ慎重になっているようだ」と話す。
政府は「Go To」の再開に当たり、利用客がワクチン接種証明か検査の陰性証明を提示する「ワクチン・検査パッケージ」を活用する方針だ。旅行ツアーや宿泊施設を対象に課題点などを洗い出す実証実験を進めており、その結果を踏まえて運用ガイドラインを策定する。再開は少なくとも実証実験が終わる11月中旬以降になる見込みだ。
ただ、課題点もある。昨年に「Go To」が導入された際、1人1泊当たり2万円を上限に旅行代金の半額を補助した中で、利用が高級宿に偏ったこと、土日祝日に集中したことなどが指摘された。
岸田文雄首相は割引率で差をつけるなど改善策の検討を表明。一方で、観光庁の担当者は「利用の分散を進める方策は検討しているが、割引率の上げ下げを考えているわけではない」と話しており、方向性は見えない。
現場からは政府にさまざまな注文の声が上がる。
早期再開を求める星野リゾートの広報担当者は「制度としてシンプルであることが重要。(条件による割引率変更など)分かりにくくなると逆効果だ」とし、事業者や利用者が混乱しないような仕組みを求めた。
「Go To」自体に懐疑的な声も。小規模ホテルを展開しているJ&M HOLDINGS(東京)の永田賢治社長は「消費者は補助を有効に活用したいわけで、普段より上のレベルの宿に泊まるのは当然。平等な支援策とはならない」と指摘。割引制度では全体の支援につながりにくいとし、「観光や出張で安心して動ける状況をつくり出すことが先だ」と訴えた。
東洋大国際観光学部の越智良典教授は「補助の上限額を抑えて昨年よりも長期にわたって『Go To』を続けられれば、中小業者にも恩恵が行き届くようになる。価格差をつけることで関連業界が総合的に潤うようにすべきだろう。課題もあるが、成果の方を見てあげるべきだ」と指摘する。(福田涼太郎)