海外情勢

「自力で新製品を創出すべきだが…」お客だった中国企業に脅かされる韓国企業の大ピンチ (2/2ページ)

 ■中国に追い上げられ、台湾との差は開くばかり

 他方で、最先端の製造技術の分野では、サムスン電子が成長分野として一段と重視するファウンドリー分野で台湾積体電路製造(TSMC)がロジック半導体の回路線幅を小さくする微細化技術を強化し、最先端の製造技術の向上を推進している。一時的な需給の変化があったとしても、中長期的に世界経済のデジタル化関連投資は増加基調を維持し、最先端のロジック半導体需要は増えるだろう。

 複数の事業を抱えるサムスン電子がファウンドリー特化のTSMC以上のスピードで最先端の製造技術を開発することは容易ではない。やや長めの目線で考えると、サムスン電子などの韓国企業は、汎用品分野では中国勢に追い上げられ、韓国政府が重視する半導体産業では最先端の製造技術の点でTSMCとの差が拡大する恐れがある。

 ■韓国経済の回復ペースが鈍化する2つの要因

 今後、徐々に韓国経済の回復ペースは鈍化する可能性がある。それは、外需と内需に分けて考えると分かりやすいだろう。

 まず外需に関して、目先、世界のDRAMやパネル需要が追加的に減少する可能性がある。それは、韓国の経済成長を支えてきた輸出の減少要因だ。

 半導体業界の専門家からは、2022年にDRAM価格が15~20%下落する可能性があると指摘が出ている。サムスン電子が液晶パネル事業の撤退時期を先送りしたこともあり、世界的にパネルの需給が緩み、価格に追加的な下押し圧力が加わるとの見方もある。そうした展開が鮮明となれば、韓国経済の成長を牽引してきた半導体などの輸出の増加ペースは徐々に鈍化するだろう。

 また、中国では不動産デベロッパーのデフォルトリスクが一段と高まっている。本格的なデフォルトの発生は不動産市況の悪化につながり、中国の景気減速が一段と鮮明になるだろう。それは、韓国の対中輸出の減少につながる恐れがある。汎用型の半導体、自動車、デジタル家電などの対中輸出が減少すれば、韓国国内での設備投資にもマイナスの影響が及ぶ可能性がある。

 ■世界経済の減速リスクは高まっている

 次に、内需に関しても先行きの不確定要素が増えている。特に、“エネルギー危機”と言われるほどに天然ガスや石炭、原油の需給が逼迫し、世界的なインフレ懸念が高まっていることは大きい。それは、エネルギー資源や化成品などの基礎資材を輸入する韓国の内需を圧迫するだろう。

 インフレ懸念を抑えるために韓国銀行は追加利上げを重視しているが、追加利上げの実施は家計の資金繰りにマイナスの影響を与え、内需を追加的に圧迫する恐れがある。感染再拡大の影響も軽視できない。足許、輸出を中心に韓国経済は相応の堅調さを維持しているが、徐々に景気は減速する可能性がある。

 重要なことは、メモリー半導体やスマホなどの世界シェアが高いサムスン電子などの株価は、世界経済の今後の展開に関する主要投資家の見方を機敏に反映することだ。サムスン電子など韓国主要企業の株価の不安定感の高まりは、世界経済の減速リスクが高まっていると考える投資家の増加を示唆する。

 

 真壁 昭夫(まかべ・あきお)

 法政大学大学院 教授

 1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。

 

 (法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)(PRESIDENT Online)

Recommend

Ranking

アクセスランキング

Biz Plus