■政党交付金の支給で、政治献金は力を失った
「選挙に金がかかりすぎる」「金権政治の温床となる」との批判を受けて、95年に政党助成法が成立。税金から各党の政治資金の原資となる「政党交付金」が支給されるようになったためだ。政党交付金は各党の議員数と得票数によって割り振られ、自民党なら年間170億円もの交付金が支給されている。
この資金を一手に握り、配分するのが自民党なら幹事長になる。自らが推す派閥の領袖などが幹事長になれば、その恩恵に浴する可能性は高まる。そうでない議員も、党資金の元締めである「幹事長」に従うことになる。特に盤石な政治基盤を持たない議員ほど、その傾向は強くなる。
かつて「奉加帳」方式で献金額を加盟企業に割り振って献金をしていた経団連も、一連の選挙制度改革やそれに伴う政党交付金の支給によって、政治献金は各企業の自主判断にゆだねることになった。
今でも日本自動車工業会の8040万円(2019年)を筆頭に、団体では日本電機工業会(7700万円)、日本鉄鋼連盟(6000万円)と続き、個別企業ではトヨタ自動車(6440万円)、日立製作所(5000万円)、キヤノン(4000万円)と名を連ねるが、議員各人に行き渡るのはごくわずかだ。政治家個人で唯一できる「集金」の場は、パーティー券の販売など限られた方法だけだ。
■企業側は政治家に直接アプローチするしかない
企業側にしても、せっかく献金しても党の事情によってその献金は幹事長を中心に割り振られることで「企業の要望を直接政策に反映できるような生きたカネにならない」ことになる。
ロビー活動などのルールが未成熟な中では、東京電力や関西電力など電力大手なら「原子力発電所の再稼働」、NTTやKDDIなど通信各社なら「スマホ料金の値下げ問題」といった業界の個別問題については最終的には担当する大臣や業界に影響力のある議員に直接アプローチするしかない。
経団連なども能力に劣る「世襲議員」の増加や、その時の流行りに乗って当選するタレントや「チルドレン」の増殖には頭を痛めている。
■英国には政治家が政策策定に専念できる仕組みがある
すでに13年には「天下国家を語ることのできる優れた政治家が着実に当選回数を重ねることが困難になる一方で、経験不足の新人議員が散見されるようになっている」と問題点を指摘。かつての中選挙区制におけるメリットの再評価などあるべき選挙制度の検討を求めたが、当時の米倉弘昌経団連会長と安倍首相の関係が悪化、議論が深まることはなかった。
中国の経済や軍事面での台頭など、日本を含めたアジアの安全保障が喫緊の課題になる中で、各議員が地元選挙区の利害を代弁するだけに終始することになれば、国にとって大きな損失となる。
特に自民党では、議員の「序列」として最上位に立つのは、小選挙区で勝ち上がって当選回数を重ねた衆院議員だ。しかし、英国では各地で戸別訪問などを通じて「どぶ板」を踏みながら力をつけた議員が党によって有力選挙区に引き上げられ、政策策定に専念できる仕組みを取り入れている。
自民党でも「政策立案能力」にたけた議員は比例区の上位の序列に置き、そこから専門分野の大臣に長く据えるなど、比例区を置いた原点に戻り、「中長期的な」議員のキャリアパスを構築する必要もあるだろう。
■日本で企業活動するメリットが薄れてきている
長く続いた安倍・菅政権は、ある意味で、その強さゆえに、携帯電話料金の値下げなど、ある特定の業界や企業に対して「上から目線」で圧力をかけることで業界をグリップしてきた。さらに、デフレ脱却のために企業の内部留保を吐き出させるような施策もちらつかせ、企業に賃上げを迫った。
「分配」を強調する岸田新政権もこの企業の内部留保の取り崩しに切り込むという観測も流れ始めている。
企業にとっては諸外国に比べて高い法人税、さらには多くの原発の稼働停止が続く中、代替燃料である液化天然ガス(LNG)価格の高騰で電気料金が上昇、さらには再生エネルギーの調達が地政学的に難しい中で脱炭素への対応を迫られるなど、日本で企業活動するメリットが薄れてきている。
喫緊の課題であるエネルギー問題や経済安全保障、さらには企業の競争力強化に向けた「天下国家」を語れる「骨太」の議論に正面から取り組める議員を増やすことに加え、政官と民間企業との間で健全な形で政策議論ができる環境づくりを新政権は急ぐ必要がある。
(プレジデントオンライン編集部)(PRESIDENT Online)