田中秀臣の超経済学

「医療ムラ解体」竹中流ショック療法の弊害 (1/2ページ)

田中秀臣
田中秀臣

 しばしばネットをみると、慶応大学名誉教授・竹中平蔵氏への感情的な批判というか、単に怨嗟(えんさ)に満ちた誹謗(ひぼう)中傷を目にすることが多い。まるで竹中氏が日本の影のフィクサーか何かのようだ。

 例えば、「竹中氏は派遣法を改悪し、自身が会長を務めるパソナに恩恵を与えた」などというものがその代表例だ。しかし、竹中氏は小泉内閣の総務相であり、派遣法の改正には関与していない。他にも「派遣法改悪」だけでなく、いろいろなパターンがあるが、だいたい彼の私的な利益に結びつくとする批判(誹謗中傷)が大半である。

 こう書くと、「そんなに批判が嫌なら竹中氏は政治的な問題に一切関与するな、発言するな」というものを目にした。これなどは個人の意見表明の自由を単に弾圧するだけのものだ。

 だが、もちろん、竹中氏の発言が無問題というわけではない。個人的な経験を書くが、私の時論のデビュー作である『構造改革論の誤解』(東洋経済新報社)などでも竹中氏の経済政策観を批判している。たとえば、郵政民営化を公的なお金の流れに傾斜した「資金配分の歪み」を正し、それによって日本の長期停滞脱出するという視点は、日本の長期停滞の真因(総需要不足)からみて政策の割り当てを間違っていると批判した。いわゆる「構造改革なくして景気回復なし」という小泉構造改革路線への批判である。

 この種の竹中氏の発言は、しばしば社会が一種の熱狂状態にあるときに行われることが多い。当時ならば小泉純一郎ブームだろう。若田部昌澄早稲田大学教授(現:日銀副総裁)は、経済学史学会の報告「日本における構造改革ーある知性史ー」(2014年)で、竹中氏のこの経済政策観をショック療法に親和的であると指摘した。その指摘は、今回のコロナ禍でも通用する。

 最近では、彼のTwitterでの発言に疑問を抱いた。

コロナ問題最大の課題は、病床不足で医療逼迫すること。病床を増やせというと、医療関係者は「出来ない」理由を並べたてる。小泉元首相は官僚に対し、「出来ない理由を言うのではなく、専門家ならどうしたら出来るか案を持ってこい」と常に述べた。「医療ムラ」を解体しないと、日本は良くならない。(竹中氏のTwitterより)

 これは新型コロナ禍の最大課題を、病床不足の医療圧迫であり、その主因は医療関係者にあるとしたものだ。これは正しい見方なのか? 

 竹中氏のTwitterの断片的な発言だけみても不十分である。デービット・アトキンソン氏との共著『「強い日本」をつくる論理思考』(ビジネス社)が参考になる。ちなみにアトキンソン氏の経済論についても、私は批判的である(参照:論説「アトキンソン氏にひきずられるな」『正論』2020年12月号)。

 竹中氏は、エビデンスに基づき論理的に考え、ワイドショーのような印象報道に流されないようにしよう、と主張している。この点は100%賛成だ。しかし「医療圧迫」の原因の分析はそれを自ら証明しているだろうか。

 まず、竹中氏の論理の前提では、1)日本は人口あたりの病床数が世界一多い、2)コロナ感染者数や死者数の対人口比は、欧米に比べると大幅に少ない、というものがある。この前提から、「今回のコロナ禍において24時間体制で働いているのは、主として国立病院や公立病院の医師や看護士です。これ以上、 病床数を増やそうと思ったら、 民間病院に求めるしかない。ところがそれを実現しようと思ったら 知事は地元の医師会と戦わなければいけない。それをやりたくないから、 病床数をこれ以上増えないことを前提にして、『とにかく感染者数を減らせ』と言う傾向があるのです」と、竹中氏は結論付けている。

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