【ソウル=桜井紀雄】23日の東京五輪の開会式に合わせた訪日を土壇場で取りやめた韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、最後まで訪日にこだわっていたことが、韓国大統領府高官らの証言で浮かび上がった。政府や与党内の対日強硬論に抗せず、自らが展開してきた「反日」世論に依拠した外交の限界が露呈した結果となった。
「残念だ」。文氏が19日に訪日断念を決めた後、こう漏らしたと大統領府の朴洙賢(パク・スヒョン)・国民疎通首席秘書官は20日、ラジオ番組で明らかにした。文氏は「両国首脳がいつでも会えることを望む」とも話したという。
朴氏は19日朝の時点でも「容易な道より良い道に進もうと努力している」と説明していた。訪日に否定的な世論に従うより最後まで訪日の調整を続けるという意味だ。日韓関係改善に「大統領は強い意志を持っていた」(朴氏)という。
だが、大統領府高官は「大統領府内の雰囲気が懐疑的なものに変わった」と振り返る。16日に報じられた相馬弘尚・駐韓総括公使の発言が引き金だった。文政権の独りよがりの外交を自慰行為に例えたものだが、韓国側は日本政府の傲慢さの表れと受け取ったようだ。崔鍾建(チェ・ジョンゴン)第1外務次官は20日、記者団に、発言が文氏訪日の「相当な障害となった」と述べ、「(日本政府の)本音を示すなら大きな問題だ」と批判した。
文政権や与党「共に民主党」内は日本非難一色となり、知日派で知られる李洛淵(イ・ナギョン)元首相も19日、フェイスブックで「韓日首脳会談に期待するのは無意味だ」と切り捨てた。こうした身内の反対を押し切って訪日する名分として文政権が日本に求めたのが、対韓輸出管理厳格化の撤回だった。
朴氏は日本との協議で「相当な進展があった」とするが、韓国がいわゆる徴用工訴訟問題で解決策を示すのが先だとする日本側との溝は深く、韓国紙の一つは、文政権が「成果にこだわり、不可能に近い取引を実現させようとしたこと自体が誤り」との見方を伝えた。
訪日断念について朴氏は「国民感情を無視できなかった」と語ったが、日本が2年前に輸出管理を厳格化した際、対日強硬世論を主導したのは、ほかでもない文氏自身だ。韓国紙、中央日報は20日付の社説で「政府・与党の指導層が反日感情や韓日対立の悪化をあおったのが事実だ」とし、関係改善に向けた日韓双方の消極姿勢が「積み重なった結果が現在の状況だ」と文政権にも自省を促した。