国税庁が1日公表した全国各地の路線価。近畿2府4県の状況をみると、インバウンド(訪日外国人客)の減少で下落が続いていた大阪・ミナミの商業エリアでは全国最大の下落率を記録した一方、テレワークの普及などを背景に、ファミリー世帯向けの新築マンションの取引が好調とされる都心近郊の住宅地では上昇した。いずれも新型コロナウイルス禍が影響したとみられる。
昨年分の路線価が2度も減額補正された繁華街・ミナミ(大阪市中央区)の地域では、心斎橋筋2丁目の心斎橋筋(戎橋ビル前)で全国最大となる26・4%下落した。道頓堀商店会の北辻稔事務局長は「観光客数は大幅に減ったまま。厳しい状況が続いている」と声を落とす。
近畿2府4県の標準宅地の対前年変動率は平均0・9%のマイナスで、6年ぶりに下落した。
一方、路線価が上昇した地域も。そのほとんどが都心近郊エリアだった。税務署ごとの最高路線価の中での上昇率トップは、阪急川西能勢口駅前(兵庫県川西市)の4・0%で、JR芦屋駅前(同県芦屋市)3・6%▽阪急高槻市駅前(大阪府高槻市)3・4%▽北大阪急行千里中央駅前(同府豊中市)1・6%▽阪急西宮北口駅南側(兵庫県西宮市)1・4%-と続いた。
不動産経済研究所大阪事務所の調査によると、これらの地域では通勤や通学、買い物などの面で生活の利便性が高い割に、都心よりも比較的安い価格で広めの新築マンションが分譲されている。3千万~4千万円程度の予算で考えた場合、大阪の都心だと40~50平方メートルほどの部屋が一般的だが、同じ価格帯で70平方メートル超の広さを手に入れることも可能だという。
コロナ禍がこうした部屋の取引を後押しした面もあるとみられ、同事務所の笹原雪恵所長は「テレワークの普及で現役世代の在宅時間が長くなり、金銭的にもスペース的にもゆとりがある家を求める人が増えた」と分析する。
大阪学院大の相川真一准教授(不動産学)は「コロナの影響で働き方が変わるのに伴い、住環境に対しての考え方も変わり始めている」と指摘。子育て世帯などを中心に、都心近郊の住み心地の良さを求める傾向が強まっているといい、「傾向はコロナ収束後も続くのではないか」とみている。