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教育機会減少による将来所得の「傷痕」

 国際通貨基金(IMF)が発表した4月の世界経済見通しでは、タイミングやペースに違いはあるものの、各国が新型コロナウイルス禍から持ち直すシナリオが示された。しかし、以前の見通しと比較して新型コロナによる国内総生産(GDP)の損失を見ると、先進国が徐々に差を縮める一方、アジア新興国では2022年以降むしろ拡大する。この要因として、IMFではワクチン接種の遅れのほか、コロナ禍で生じた労働の毀損(きそん)が深刻なことを指摘している。

 コロナ禍のアジア新興国では、休校が長期化する中、先進諸国と同様にオンライン授業は実施されたが、IT機器の保有率は低く、休校による教育機会の減少を十分に補完できなかった。

 オンライン授業の効果は、先進国で対面授業の7割以上に及ぶ一方、アジア新興国では3割にとどまったという試算もある。これは労働者のスキル毀損につながり、アジア開発銀行(ADB)は、アジア新興国における休校による生涯賃金損失をGDPの5.4%相当と試算した。特に、インドなどの南アジアや、モンゴルなどの東アジアで損失は大きくなっている。

 国民の教育は、設備投資やイノベーションと並び、経済成長の重要なドライバーである。ワクチン接種が遅れる新興国では、感染収束に長期を要すると予想される。当面の経済低迷が、教育レベルの低下を通じて将来所得に及ぼす「傷痕」を最小限にとどめるために、情報通信インフラの整備や、低所得世帯へのIT機器普及など、オンライン教育体制の確立に取り組む必要がある。(日本政策投資銀行経済調査室 崎山公希)(編集協力=日本政策投資銀行)

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