瀬戸内海に浮かぶ島で、地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」実現のカギを握るプロジェクトが進行している。大崎クールジェン(広島県大崎上島町)が取り組む革新的な石炭火力発電の実証試験だ。政府は2050年までの実質ゼロを打ち出したが、その実現のため、天候等に左右される太陽光や風力などの再生可能エネルギーを増やせば増やすほど、実は火力発電が調整電源として重要な役割を担うことになる。同社が挑むイノベーションは、地球温暖化の“救世主”と期待されている。
究極のトリプル発電
「二酸化炭素(CO2)を多く排出する石炭火力発電は今、逆風にさらされている。しかし、石炭は埋蔵量が豊富で世界中に分布し価格も安く安定している。資源に乏しい日本にとって安定供給、経済性の面で極めて重要な資源だ」大崎クールジェンの久保田晴仁・取締役総務企画部長は、こう力を込める。
同社は2009年に中国電力と電源開発の折半出資で設立。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と共同で、発電効率を究極まで高めると同時にCO2排出量を90%以上削減する「CO2分離・回収型石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)」の実用化をめざしている。従来型の石炭火力発電は、石炭を燃焼させた熱で蒸気を作り、タービンを回して発電している。これに対し、IGFCは、石炭を粉末状にし高圧下で酸素を吹きかけながら熱を加えて生成した石炭ガスを利用。(1)ガス中の水素と酸素との化学反応で発電する燃料電池(2)ガスを燃焼して回転させるガスタービン(3)ガスタービンの排ガスの熱を利用して作った蒸気で回転させる蒸気タービン-のトリプル発電により、発電効率が大幅に向上。これにCO2の分離・回収を組み合わせるという革新的な技術だ。
CO2を90%以上回収
実証試験は、IGFCの基盤技術であるガスタービンと蒸気タービンによる複合発電の第1段階を終え、CO2分離・回収を組み込んだ第2段階が行われている。来年3月に燃料電池を組み合わせた最終の第3段階に入り、22年度中に終える計画だ。第1段階で、発電効率の向上、設備の耐久性、設備費を含む発電コストなどすべての目標をクリア。第2段階では、90%以上のCO2を分離・回収することに成功した。また同社の隣接地では、分離・回収したCO2をコンクリート素材や燃料などに再利用するカーボンリサイクルの実証研究も近く始まる予定だ。火力発電から排出されるCO2を回収し、資源として有効利用したり、地中に貯留したりする技術を「CCUS/カーボンリサイクル」と呼び、これにより、CO2排出量を実質ゼロにすることができる。カーボンニュートラルの実現には、CCUS/カーボンリサイクル技術を確立するイノベーションが不可欠で、その実用化に向け、同社の実証試験は重要な役割を担っている。
経済合理的な技術確立へ
石炭火力発電をめぐっては、LNG(液化天然ガス)火力に比べ約2倍のCO2を排出することから、欧州では全廃の動きも出ている。ところが、石炭をガス化すると、CO2の分離・回収の面で優位となる。LNGの場合、燃焼させて発電に利用した後の排ガスからCO2を分離・回収する。これに対し、石炭ガスの場合、燃焼前の高圧で体積が小さく高濃度の状態でCO2を分離・回収することができ、効率的でコストが抑えられるというメリットがある。CO2の分離・回収には多大な費用がかかるため、経済合理性を備えた分離・回収技術の確立が課題となっている。「石炭火力発電は日本にとって必要な電源だ。このプロジェクトを通じて、石炭火力を持続的に活用していける技術を確立するとともに、コスト的にも普及可能なものとすることで、カーボンニュートラルの実現に貢献したい」久保田氏は、プロジェクトの意義をこう強調した。
再エネ拡大へ役割高まる火力発電 高い調整力で安定供給に貢献
カーボンニュートラル実現に向け、主力電源と位置付けられている太陽光や風力などの再生可能エネルギーには、発電量が天候等に左右され、変動するという課題がある。電力は需要と供給を絶えず一致させるよう需給バランスをコントロールする必要があり、バランスが崩れると、「ブラックアウト(大規模停電)」につながる恐れがある。再エネの発電量の変動をカバーする調整電源として欠かせないのが火力発電だ。火力発電は燃料の投入量によって出力を柔軟にコントロールすることが可能で、高い調整力を持つ。天候などの影響で再エネの供給量が減少した場合、火力の出力を上げ、需給バランスを調整している。再エネを増やせば増やすほど、変動幅は大きくなり、それをカバーする火力発電の役割も高まる。また、電気を安定的に供給するためには、周波数を一定に保つ必要があるが、発電設備や送電網にトラブルが起きると、バランスが崩れて周波数が変化することがある。その場合でも、火力発電はタービンを回転させて発電し、周波数を安定させる力を持っている。今後、再エネの導入が大幅に増えると、火力発電が持つその力が重要になる。調整電源としては、再エネの余った電気をためておく「蓄電池」が期待されているが、経済性の面で実用化のメドはたっていない。再エネの拡大と安定供給の両立には高い調整力を持つ火力発電が不可欠だ。