【ジュネーブ=小野田雄一】ロシアのプーチン大統領は16日のバイデン米大統領との首脳会談をロシアの存在感を誇示する機会にしたい考えだ。バイデン政権が自由や民主主義を掲げて同盟・パートナー諸国を結集し、中露などの権威主義国と対峙(たいじ)する姿勢を鮮明にする中、米国と異なる価値観を持ちつつも対等に渡り合える「強国」としてのロシアを内外に印象付けることに主眼を置く。
首脳会談を前に、プーチン氏は13日放映の露国営テレビのインタビューで、首脳会談を通じ「米露関係を再建し、双方に利益をもたらしたい」と述べた。
しかし、2014年にウクライナ南部クリミア半島を一方的に併合し、欧米諸国と決定的な対立を招いたのはプーチン氏だ。
ウクライナの親露派政権が親欧米系住民のデモで倒れた14年の政変について、プーチン氏は欧米が裏で関与してロシアに挑戦したとみてクリミアを併合。ウクライナ東部で親露派武装勢力も支援した。
欧米は当時の主要8カ国(G8)の枠組みからロシアを追放。経済制裁も発動して圧力をかけた。
だが、ロシアはクリミア併合を「民意」に基づくものとして正当化。15年のロシアによるシリア内戦への軍事介入や16年米大統領選干渉問題などでも米露対立は深刻化した。民主主義の価値観を重視するバイデン米政権の発足後は、ロシア系ハッカーによるサイバー攻撃や人権侵害問題で緊張がより高まっている。
プーチン氏はかねて「民主主義の原則にはロシアの歴史、伝統を反映させる必要がある」との考えを表明し、国家の安定を第一とし、無制限の人権尊重や言論の自由の保障に否定的な立場を示してきた。「自由主義は時代遅れだ」と述べたこともある。
プーチン氏は今年4月、ロシアの国益を脅かす国には「苛烈な返答で後悔させる」と警告した。米国が同盟国と協調して対露圧力を強化したり、自らの勢力圏とみなす旧ソ連圏への関与を強めたりする事態を押さえ込む意図がある。
同時に、プーチン氏は米中心の「一極」や米中両国の「二極」ではない「多極世界」の構築を提唱し、ロシアがその一角の雄として立つ戦略を描く。その実現のため今回の首脳会談では軍備管理など双方に利益のある分野で協調しつつも、国益の核心に関わる分野では譲歩しない構えだ。