カンボジア政府観光省はこのほど、「外国人観光客を2021年第4四半期に歓迎するための準備」と題した動画を発表した。この中で同省は、10月をめどに、一定の条件を備えた外国人観光客を国内観光地に迎え入れるための調査をしていることを明らかにした。カンボジアは現在、観光ビザの発給を一時停止している。
カンボジアには、アンコールワットなどのアンコール遺跡群、タイ国境の断崖にあるプレアビヒア遺跡、中部コンポントム州にあるサンボー・プレイ・クック遺跡の3つの世界遺産があり、観光産業は国内総生産(GDP)の3割を占める主要産業の一つだ。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により外国人への観光ビザ発給が1年以上停止されており、観光セクターは深刻な打撃を受けている。
◆20年は8割減少
同省によれば、20年にカンボジアを訪れた外国人客は131万人で、前年の661万人から80.2%も減少した。外国人客の減少分を取り返そうと、観光産業は国内旅行の普及に力を入れたが、こちらも900万人で前年比20%減少した。カンボジアでは20年1月末に初めての新型コロナ感染者が確認されたが、それから1年以上の間、感染者は海外由来のみで、国内での市中感染は発生していなかった。そのため、観光セクターは国内市場の拡大に目を向けてきたが、期待したほどの活発な動きにはならなかった。
さらに今年2月20日には国内で大規模な市中感染が確認され、4月にはプノンペンなど主要都市がロックダウン(都市封鎖)されるまでに感染が拡大した。5月になって1日の新規感染者が減少傾向になり、ロックダウンは解除されたものの、感染が完全に抑制されたわけではない。しかし一方で新型コロナワクチンの接種が進む。地元紙の報道によると、カンボジアでは5月24日現在で接種率が23%に上り、228万人余りが少なくとも1回の接種をした。政府は22年半ばまでに、全人口の62%に当たる1000万人への接種を目指しているという。
こうした事情を受け、同省は、新型コロナのワクチンを接種した外国人には、現在設けている14日間の強制隔離を免除または短縮することを検討している。現在、カンボジア人を含む全ての渡航者に、到着時のPCR検査と14日間の指定施設での強制隔離が義務付けられている。深刻な影響をもたらした今年2月の市中感染のきっかけが「強制隔離措置に従わなかった外国人」だったとみられることから、カンボジアでは感染予防策に違反した場合の厳しい罰則を含む法律が制定されており、厳格に実施されている。
◆隔離免除・短縮へ
同省の動画によれば、「観光省は10月から、ワクチンを接種した外国人客に対し、強制隔離を免除または短縮できないか可能性を探っている。観光セクターを再興させるためには観光客の受け入れが必要だ。同時に観光地の安全が確保されるよう関係者とも方法を協議中だ」としている。別の報道によれば、受け入れる外国人客は「感染リスクの低い国・地域」からに限定されるとの情報もある。また、観光地の徹底した衛生管理と観光セクター従業員の感染予防策、外国人観光客の行動規範など、関係者全てが感染拡大阻止に取り組む必要がある。
カンボジアでは雨期が終わる10~11月以降、3月ごろまでが観光のハイシーズンになる。このタイミングを逃せば、国内の観光産業は再興にさらに時間がかかることになる。アンコール遺跡群のある北西部シエムレアプでは、既に多くのホテルや飲食店が休業や廃業に追い込まれ、失業者も多く出ている。外国人客受け入れの課題は多くあるが、観光産業の復興はカンボジア経済全体にとっても急務となっているようだ。
5月27日現在、感染者は累計2万7638人。このうち死者は194人となっている。1日の新規感染者は600人前後で、5月半ばにはいったん減少傾向になったが、同月末には工場でのクラスター感染が発生するなど、再び増加傾向にある。(カンボジア情報「プノンネット」編集長 木村文)